あなたの愛したエンドロール

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 なんというか、特殊過ぎる。  渋々といったかんじで室内の説明を終えた葛城が、渋い顔で私を見た。 「……っていうか。ほんとに、来たんだ」 「いや、来ますよ。初出勤日ですもん」 「よく来れたものね」 「地理には強いんで」 「いや、そうじゃなくて! あんな、まるで脅しみたいな言い草で採用されて、よくのうのうと来れるよねって言ってるの」 「はぁ。脅しってなんのことです?」 「な……っ!」 「私は何も知らないですよ、葛城陽菜監督。……新進気鋭の女性監督による、素人の自主製作映画からの剽窃なんて、ほんとに、なーんにも知りません」  陽菜の顔は蒼白だ。よく眠れていないのかもしれない。服装のラフさのわりには完璧にほどこされたメイクでも、顔色の悪さは隠しきれていない。  夏雨が生前に作った作品は片手で数えられるほどだ。  習作じみたショートムービーが数本。  映画サークルで作成した短編映画が、一本。  そして、彼女が死んだときに作成していた行方知れずの長編映画が、一本。  葛城陽菜を一躍有名にした映像こそが、夏雨が生前に作成したたった数分の短編映像のうちの一本なのだ。家に残された夏雨の遺品は、私がすべて把握している。もちろん、短編映像だって例外ではない。  そして。  私はここに、夏雨の最期の遺品を探しにきた。
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