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ちょっと待ちなさい、と焦る葛城の腕を振りほどく。
私は迷わずに、一番奥まった部屋へと進んだ。
「そもそも、寝室に入っちゃいけないとか怪しすぎるでしょ!」
「当たり前でしょ、プライベートって概念知ってるか!」
「公私ともにアシスタントとして支えますよ、監督! 曝け出してくださいよプライベートをっ!」
「私の意志は!?」
「黙ってろよ。泥棒、人殺し、強姦魔!」
「ひ、誹謗中傷っ!」
葛城の声を無視して進む。
目指すは、葛城陽菜の寝室だ。
立ち入り禁止のプライベートスペース。きっと、そのどこかに、夏雨が最期の日に撮っていた映像が隠されているに違いない。
引き戸に手をかける。引き戸は音もなく滑る。
寝室には――ゴミが、山積みになっていた。応接スペースだって決して小綺麗なわけじゃなかったけれど、これはなんというか――巣だ。ニンゲンの巣。
食べかけのカップ焼きそばやら、ピザの空き箱でできたタワーやら……とても人間が快適に生活できる部屋ではなかった。本当にここは寝室か?
「うわ…………」
「だから見ないでって言ったじゃない!」
「本当にここで生活しているんですか」
「してる。というか、アシスタントを雇えって制作会社に厳命されたのはこれが原因だよ」
「厳命」
「この間、急性腸炎で救急車騒ぎになってね……部屋に数日放置してた冷凍グラタンを食べたのが原因だった」
「なぜ食べた」
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