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記憶の中の四条夏雨は、儚げで超然とした姉だった。映画を観ることだけが心の慰めだったであろう幼少期を感じさせない、凛とした、神様みたいな人……のはずだった。
(なんなんですか! なんなんだ、これ!)
しかし、葛城のベッドサイドの写真の夏雨は――あどけない少女のようにダブルピースをして、ふにゃふにゃとした笑顔を浮かべている姿が写されていた。誰なんだこれは、夏雨か。……夏雨か!
「……家でのお姉さんと違う?」
「全然違う!」
別の写真の、おにぎりを頬張って笑う夏雨の口元には米粒がくっついている。ソファで転寝している夏雨は、ちらりとお腹が出ている。どこか抜けていて、愛らしい表情。
病室の窓から空を眺める横顔が儚げで、語り口もどこか超然とした美少女……私の知っている四条夏雨の姿はどこにも見当たらなかった。
写真の中の夏雨は、超然とした美女でもなんでもない。
可愛らしい、女性だった。
私の知らない、夏雨。
ムカつく、ムカつく……なんでこいつが、私の知らない夏雨を知っている。
「そっか、違うんだ」
夏雨の表情には、このデジカメをむけている人間……葛城への信頼が溢れている。
ちくちくと胸が痛い。夏雨は、こんな表情を私に見せてくれたことないのに。ギリギリと唇を噛みしめる。
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