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葛城の前では、可愛い彼女を演じていた。
その事実が、私にとっては受けいれがたかった。悔しかった、悲しかった。四条夏雨は、いつでも、どこでも、特別で完璧な存在であって欲しかった。
だって。
だって、彼女が死ぬまで、ずっと。
私の人生のほとんどは、四条夏雨に捧げられてきたのだから。
「はっきり言っておくけど、私は彼女を愛してる。夏雨自身も、彼女の才能も。私が夏雨を殺すなんてありえないからな」
「それは、遺作が見つかればわかりますってば」
葛城陽菜は四条夏雨と恋人同士だった。
それは、まぎれもない事実なのだろう。
だって、散らかり放題の部屋の中、写真立てには少しのホコリもついていなかったのだ。
「遺作を探そうなんて、やめたほうがいい」
デスクトップを操作しながら、葛城が言った。
彼女の映画監督としての処女作になる作品を、編集している。生活をどうにか維持して、彼女のすべてをその作業に注力するための、アシスタントの募集だ。
映像の独特の世界観や美しさで世界的に有名な映像アーティスト葛城陽菜みずからが監督、編集を行うということで話題になっているそうだ。
一通り私に仕事の詳細――掃除道具の置き場所やら、生活用品を発注するための通販サイトのアドレスやら――を説明してからは、わき目もふらずに編集作業をしている。
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