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もしもこの女が撮影データをもっていなかったとしたら、また別の手立てを考えればいいだけだ。ついでに、夏雨の作品を剽窃したって事実をリークしてやることだってできる。
「……悪いこと考えてそうな顔」
葛城の言葉に、私は余裕たっぷりに微笑んでみせてやった。
「私が探し物を見つけるまでの間、仲良くしましょうね」
私の笑い顔は、夏雨にとても似ている。笑顔、笑顔。
「うわ……」
めちゃくちゃ嫌な顔をされた。
3.
初めて彼女の顔を認識したときには、息が止まった。
生き写しだ。そう思った。
黒々とした髪の長さ、肌の白さ、姿勢、声。すべてが、四条夏雨にそっくりだった。彼女がまとっているスーツ、髪飾り、指に光る夜空色の石をはめた指輪――どれも見覚えがあった。見間違えるはずもない、四条夏雨の遺品だ。
気持ちが悪い――それが、率直な感想だった。
姉の遺品を身にまとい、姉にそっくりの髪型やら服装やらで、その姉の元恋人である自分のもとに乗り込んでくるとかどういうつもりなのか。
四条夏雨が最期の日に撮った映像を――遺作を探すとかいっているけれど。ここには、そんなものなんて、ないのに。何度説明しても、冬花は納得してはくれない。
「お世話になります。葛城製作事務所、アシスタントの四条です」
はきはきと取引先とのやりとりの電話をする冬花。電話に出る声まで、夏雨にそっくりだった。
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