あなたの愛したエンドロール

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「……。遅い。……いや、これじゃテンポが速すぎる」  モニターとにらめっこ。同じシーンを何度も編集しなおす。結局、なにが正解かは分からなくなっていく。たった十秒のシーンの編集に数時間、あるいは数日かけてしまうこともある。たぶん、時間感覚が人よりも鋭敏なのだ。ついついコンマ1秒、ワンフレームにこだわってしまう。  新進気鋭の映像アーティストとしてであれば、その創作姿勢は悪くない。けれど、商業ベースにのっとって映画を作るうえで、それは紛れもなく欠点だ。公開日が定められれば、それにむけてヒトとカネとモノが動いていく。納期は絶対だ。  やっと納得のいくシーンができあがって、詰めていた息を吐く。 「……あぁ、これでいい。これで」  葛城陽菜は知っている。  自分が、本物ではないことを。 (私は天才なんかじゃない。私程度の才能なんて、掃いて捨てるほどいる。そう、本当の天才っていうのは、あの子みたいな……)  思考が途切れる。  ああ、集中しないと――そう思うけれど、逆らえない。いつもそうだ。もう死んでしまったあの女のことを――四条夏雨のことを考えると、懐かしい過去に心が飛んで行ってします。 (そう、夏雨は紛れもなく天才だった)
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