46人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
「……。遅い。……いや、これじゃテンポが速すぎる」
モニターとにらめっこ。同じシーンを何度も編集しなおす。結局、なにが正解かは分からなくなっていく。たった十秒のシーンの編集に数時間、あるいは数日かけてしまうこともある。たぶん、時間感覚が人よりも鋭敏なのだ。ついついコンマ1秒、ワンフレームにこだわってしまう。
新進気鋭の映像アーティストとしてであれば、その創作姿勢は悪くない。けれど、商業ベースにのっとって映画を作るうえで、それは紛れもなく欠点だ。公開日が定められれば、それにむけてヒトとカネとモノが動いていく。納期は絶対だ。
やっと納得のいくシーンができあがって、詰めていた息を吐く。
「……あぁ、これでいい。これで」
葛城陽菜は知っている。
自分が、本物ではないことを。
(私は天才なんかじゃない。私程度の才能なんて、掃いて捨てるほどいる。そう、本当の天才っていうのは、あの子みたいな……)
思考が途切れる。
ああ、集中しないと――そう思うけれど、逆らえない。いつもそうだ。もう死んでしまったあの女のことを――四条夏雨のことを考えると、懐かしい過去に心が飛んで行ってします。
(そう、夏雨は紛れもなく天才だった)
最初のコメントを投稿しよう!