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知る限り、四条夏雨は映像づくりの天才だった。彼女が編集すれば、どんなセコい映像も美しく息を吹き返す。大学のキネマ研究会で彼女が初めて作成した短編映画は、全国コンクールで金賞を獲得した。審査結果が出たときには、彼女はもうこの世にはいなかったけれど。
もしも夏雨が望むなら、きっと映画業界でスターダムをのし上がっていっただろう。生きてさえいれば。
(――でも、天才は死んだ。私は生きている)
息をするのも忘れて、モニターをにらむ。
やっと掴んだ、長編映画の初監督。
このチャンスを棒に振るわけにはいかない――
「……とく、監督?」
「ひょああぁあぁっ!」
――いかない、のに。
「やめてくださいよ、幽霊でも見た的リアクション」
今でも、新しいアシスタントの姿を見るたびに胸が苦しくなる。不意打ちで声をかられたりしたら、なおさらだ。
「いや、その、幽霊でも見たかと思った」
「失礼すぎる」
思い切り顔をしかめた、件の新しいアシスタント。
四条夏雨――かつての恋人に、不自然なまでに瓜二つの女が目の前に現れた。
ついてない。
今は、なんの雑念もなく作業に没頭しなくてはいけないのに。そのために募集したアシスタントが、よりにもよって四条冬花――夏雨の妹(どう考えても病的なシスコン)だなんて。
「あの、もう夕方ですよ。もう何時間も水も飲んでないじゃないですか」
「え、もうそんな時間?」
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