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「十六時です。葛城監督が最後に椅子に座ってから六時間以上経ってます」
「そんなに」
「私が九時に出勤してすぐですからね。お茶です、どうぞ」
「ありがとう」
「トイレも行った方がいいですよ。尿を出さないのは体に毒ですから」
「尿って……緑茶飲んでるときには聞きたくないんだけど」
「コーヒーのが良かったですか? 下痢の話します?」
「最低!」
こちらを目の敵にしている冬花の細かい嫌がらせは、留まるところをしらない。すぐにでもクビにしたいが、そうもいかない。こちらが下手に動けば、何をするかわからない。
「あの、お昼にチャーハン作ったんです。監督、声かけても全然返事されないくらい集中していたので私だけ先にいただきましたけど……よかったら、作り直しますよ。食べてください」
「わざわざ、いいよ」
「そうはいかないです。食べない出さないじゃ体に最悪ですって」
「ずいぶん親切じゃない。私は、君の言うにはお姉さんのカタキなんでしょ?」
「……仕事ですから」
ぷい、と冬花はキッチンに引っ込んでしまう。
彼女がアシスタントとなってから、すでに数週間が経っていた。
その間にすっかり事務所も整理整頓がされてしまい、清潔感あふれる空間となっている。寝室に立ち入るなと何度言っても、無視された。
『怪しいものを隠していないか、調査ですから』
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