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と押し切られ、寝室もすっかり整頓されている。リネンも毎日交換されているようだ。
なんというか、意外とかいがいしい。
盛大な溜息。
(……意味がわからない)
事務所の清掃、取引先との連絡、さらには葛城の栄養管理。
姉の元恋人、姉の仇、剽窃者で人殺し――酷い言いようにも関わらず、冬花はほんとうに仕事中には熱心に働いているのだ。
オープンキッチンでこまごま動く冬花を眺める。卵、冷や飯、ウィンナーに葱。いたってシンプルなチャーハンを手早く作り上げている。ほかほかと繊細に立ち上る湯気。悪くない。さまになっている。こういう構図もいいかもしれない。
「いい画だなぁ」
思わずつぶやいた。
「監督。それよりも『いただきます』でしょう、はやく食べてください。殺意がわきます」
「……あぁ、いただきます」
ひとくち。
うまい。鶏がらスープがきいた、家庭の味だ。
「トテモ、オイシイ!」
「なんで片言なんですか。帰国子女ぶらないでくださいよ」
「いや、向こうで生活していたのはこの数年だし。帰国子女とかじゃないし。こういう料理を食べるのは久々だったから、つい」
「ピザの空き箱とカップ麺のごみは見飽きたので、今後はこういう庶民的な食事を提供します」
「ありがとう、って言っていいのかな?」
「私があなたの罪を追求するまで健康でいてもらいたいんですよ。あなたの人生をめちゃくちゃにするのは私ですので」
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