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時計の針は十八時前。このまま朝までぶっ続けで作業したいところだ。
退勤時間を前に荷物をまとめている夏雨が口を開いた。食事中の話題の続きのようだった。
「こちらからも質問です」
「え、別にいいけど」
冬花から能動的に話しかけてくるのは珍しい。
「おひとりで作業してるのは、やはりこの家には、人に見られたくないやましいものがあると考えていいですね?」
「え、念押し的な質問なの?」
「いいですね?」
「よくないです」
力強く否定しておく。よくないです。
「夏雨が最期の日に撮ってた映像、はやく出してくださいよ」
「だから。そんなものはウチにはないんだって」
「嘘!」
何度目かもわからない問答だ。
「……忘れないで。私があなたの世話を焼いているのは、あくまで仕事だから。こっちは、いつだってあなたの盗作を世間にバラしてやれる。あんたのこと、めちゃくちゃにしてやれるんですよ」
何度目かもわからない、脅し文句。
――思わず答える。
「……。別に、いいよ」
本心だった。
もう、自分の人生はめちゃくちゃだ。四条夏雨に出会って、その才能に焦がれて、恋して、愛してしまった。どこまでいっても、四条夏雨の手のひらの上。そんな気分だ。だから、もう、どうでもいい。
「別にいいんだよ。今やってる仕事さえやりとげられたら……好きにして」
紛れもない本心だった。
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