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この世に自分が撮った映画を残しさえしたら、それでいい。だってそれが、夏雨が望んだことなのだ。
投げやりにも聞こえただろう返答に、冬花は小さく舌打ちをする。
「……ああ、そう。じゃ、お疲れ様です」
完全に興味をなくした声だった。
振り返りもせずマンションから出ていく後ろ姿は、やっぱり四条夏雨に――かつての恋人の、生き写しのようで、抱きしめたくなった。
明らかに、あの黒い髪も、服も、立ち居振る舞いも――四条夏雨をコピーしようとしているものだ。だから、とても綺麗な顔をしているはずなのに、彼女の印象はどこかちぐはぐだ。
四条冬花。違和感だらけの女。
「……気持ちわる」
思わず、つぶやいた。
大人になってまで死んだ姉の真似をしてありもしない『最後の映像』に執着している冬花も……夏雨の生き写しみたいな妹が現れて、少なからず喜んでいる自分自身も。
ひどく、気持ち悪かった。
◆◆◆
四条夏雨という女を愛していたかと言われれば、まぁ、愛していたのだと思う。
冬花の言っていたことは本当だ。
動画サイトに、夏雨から託されていた短編映像をアップロードした。葛城陽菜の名前で。
たぶん、最初に感じたのはちょっとした感傷だったのだと思う。亡くなった恋人の遺したものを、誰かの目に触れさせたい――誰かの記憶に残したい。そんな純粋な気持ちは、たしかにあった。
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