あなたの愛したエンドロール

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 まっすぐな視線。その先には、心血を注いで完成にむけて作業中の映画。  葛藤と高揚。その表情を、よく知っている。 (……夏雨が、映画を観ているときの顔にそっくりだ)  映画への愛。  表現へのあこがれ。  幼い頃から病室のベッドでポータブルDVDプレイヤーの小さな画面にくぎ付けになっていた、夏雨の横顔。作業をしている葛城の表情は、記憶にある一番きれいな夏雨の顔とそっくりだ。  その横顔が、格好いいと――少しだけ思ってしまう。  大きな誤算だ。  葛城のことが憎いはずなのに―― 「監督、もう四時間作業しっぱなしです」 「んー」 「休憩にしましょう」 「うー」 「監督!」 「うっわあぁ!」  葛城は目の前の画面に集中すると、周囲の音が聞こえなくなる。食事もトイレも忘れてしまう。  全身全霊で作業に、映画に向き合う姿。そんな葛城を見ると、なんだか胸の奥がソワソワした。私は、馬鹿みたいに映画が好きな夏雨に憧れていた――葛城の横顔は、少しだけ夏雨に似ている。 「膀胱炎になりますよ」 「もうなってる。年に三回くらいはなる」 「えー……」 「はぁ、もうこんな時間か……夜からテレビ取材だからもうちょっと進めたかったんだけど……」  やっと、葛城の意識がこちらに戻った。  葛城は、その恵まれた容姿やいかにも才女というキャラクター性からテレビのバラエティー番組に出演することも多い。
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