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「そうかぁ。四条さんのお姉さん、いつか会ってみたいですねぇ!」
好奇心とすけべ心の両方がにじむ顔で、同期の男は目を輝かせた。
思わず、ほくそ笑む。
どうだ、私の姉は――四条夏雨は、素敵で無敵な女だろう。
「ええ、ぜひ――」
私は今日一番のとびきりの笑顔で胸を張り、自慢の姉、四条夏雨の紹介を締めくくる。
「――まぁ、でも、姉はもう死んでるんですけどね!」
◆◆◆
「ねぇ、四条。さっきのやばいって」
「やばいって、何が」
「あんたが」
懇親会からの帰り道。
右手の指輪にはまった夜空色の石を何とはなしに眺めていると、同期入社の高槻が隣で大きな溜息をついた。高槻は大学時代からの顔見知りである。
というか、同じ店舗のバイトからの正社員採用枠。つまりは、顔見知り以上の関係である。バイトの休憩中に馬鹿話をする程度には打解けている、はずだ。
高槻は映像だか音楽だかの専門学校卒で、あれこれクリエイティブ系の会社を受け続けていたけれど結局思うような結果は得られなかったらしい。
最後の最後で、バイト先だった居酒屋チェーンに泣きついて『正社員』という椅子を手にしたわけだ。親からの圧力があったらしい。
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