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とはいえ、度重なる手術によって病状は少しずつ回復してきたころには、自宅で過ごす時間も増えていたのだけれど。七年前のあの夏は、彼女が二十一才にして大学に通い始めてから、二回目の年だった。病室で死ぬものだと思っていた夏雨の死因は、事故死だった。自宅の近くの山中に自主制作映画の撮影に出かけていたところを、崖から足を滑らせて川に転落したのだ。
その前後の私の記憶はひどく曖昧で、私は当時中学三年生で、セーラー服のスカートを安全ピンで裾上げしていたことだけが鮮明に記憶に焼き付いている。
「まぁ、別に会社のやつらと仲良く当たり障りなくとは俺も思わないけどさ」
「意外。へこへこしてたのに」
「あんなん、普通だよ。普通。俺、実はいまも就活続けてるんだ」
ナイショだぜ、と高槻は声を落とす。
ニヒルを気取った表情は、さっきのしゃらくさい店にいた緊張気味の新卒ではなく自分がよく知る高槻の表情だった。
「へぇ、音楽関係?」
「あと映像関係な。音楽と映像って切り離せねぇから。営業職やら進行も含めて考えてる」
そう言って肩をすくめる高槻は、どこか誇らしげだ。
「ふーん」
「興味なさそうだなぁ、おい」
「興味ないからね」
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