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実際聞くと、とても衝撃的だった。今目の前で淡々と話す伊藤さんの表情は、その内容とあまりにも合っていない。
きっと、これが彼女の防衛方法なんだと思った。
私が、自分の意思を心を殺したように。
彼女もまた、心を殺した。
生きていくために。
「こんな月並みな言葉、きっと要らないですよね」
「…」
「とても、辛かったですね」
最近の私は本当に、泣き虫だ。
だけど、思う。
素直に泣けることは、泣ける環境にいるということは。
とても、幸せなことなのだと。
「どうして泣くの?貴女には何の関係もないのに」
「伊藤さんの気持ちを、想像したからです。私には、そうすることしかできません」
「…」
「ただの想像なのに…心が痛いです。とても」
「…」
「辛いです、とても…っ」
止めどなく溢れる涙を、必死に手の平で隠した。視界が滲んで、伊藤さんの表情も見えない。
「そういえば」
抑揚のない声で、彼女が呟く。
「初めて、そんな風に言われたわ」
「…」
「誰かに話したこともなかったし、話そうとも思わなかった」
「無理に聞いてしまったこと、謝ります」
「別に。私のことをあれだけ調べていたのなら、どうせ見当はついていたんでしょうし」
「伊藤さん」
「この写真も手紙も、私は何とも思わない。情に訴えかけたかったのかもしれないけど、残念だったわね」
その言葉に、私はフルフルと首を振る。
「そうではありません。私と貴女は違うと、知ってもらいたかったのです」
「どういう意味?」
「確かに私達は、似通った点もあります。だから伊藤さんは、私に会おうと思ったんですよね?」
「そうよ。地獄のような現実を知っている梅子さんとなら、分かり合えると思ったの」
「自分と同じ境遇の人を側においたからといって、それが幸せに繋がるとは思えません。例え私達が一緒に生活をするようになったとしても、きっと上手くはいかない」
「そんなことないわ。私達は、きっといい家族になれる」
「貴女は、家族という存在に焦がれているんですね。その温かさを、知っているから」
「そういうことじゃないわ。勘違いしないで」
「いいえ、そういうことだと思います。伊藤さんは一度は本当に、大切な家族がいたんです。例え、血は繋がらなくとも。私は血の繋がった実の両親とは、家族になれなかった。最後まで」
「でも裏切られたわ」
「それは、結果ですよね?伊藤さんにとっては、心から大切に思える家族だった。私とは、違います」
「そんなことない、私は」
私は腕に力を込めて、一気に涙を拭った。
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