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綾人さんがスーツから部屋着に着替えている間、私は天ぷらを揚げる。
料理をテーブルに並べ終えると、綾人さんがスンスンと匂いを嗅ぐ動作をしてみせた。
「あーいい匂い。おいしそう」
「今日は張り切っちゃいました」
「梅ちゃんも仕事だったのに大変だったでしょ?任せちゃってごめんね」
「私が、したかったんです。少しでも、綾人さんに元気になってほしいから」
「梅ちゃん…ありがとう」
「食べましょう」
「うん、いただきます」
「いただきます」
二人で丁寧に手を合わせて、箸を持つ。
揚げたての鶏の天ぷらを食べて、熱かったのかギュッと眉間に皺を寄せる綾人さんを見て、思わず笑みが溢れる。
「これ、凄くおいしい」
「本当ですか?嬉しい」
「…」
「綾人さん」
「いつもありがとう、梅ちゃん」
「そんな…お互い様じゃないですか。私が辛い時は、綾人さんが元気付けてくれるし」
「梅ちゃんがいるから、俺は頑張れる」
「私もです」
照れ隠しに小さく笑うと、綾人さんも目を細める。
そしてまた二人で、色々な話をしながら料理を食べた。
「わ、この煮物もおいしいね」
「この蓮根、産地直送で凄く新鮮だって八百屋さんが言ってたんです」
「しっかりシャキシャキしてる」
「わ、本当だ。歯応えがあっておいしい」
「おいしいね」
「はい」
「梅ちゃん」
「はい」
「結婚しようか」
「は…えっ?」
あまりに自然な流れ過ぎて、一瞬頭がついていかなかった。
今、私の聞き間違いではないなら。
綾人さん、結婚しようって…
箸を止め、驚いて彼を見つめる。綾人さんはとても恥ずかしそうな顔をして、それでもまっすぐに私を見つめていた。
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