第十九章「決別か、和解か」

6/13
前へ
/239ページ
次へ
「大丈夫?」 「あ、ご、ごめんなさいっ」 小さなダイニングテーブルの正面に座っている私達の、ちょうど真ん中に落ちたそれ。 拾うタイミングが重なり、私達はお互いの頭に頭をぶつけた。 「いっ」 「ごめん梅ちゃん」 「私こそっ」 顔を上げるタイミングも一緒で、綾人さんの顔が本当に目の前。あとほんの少し近付けば、頬が触れ合ってしまいそうなほど。 「…」 「…っ」 声が、出せない。体も動かない。ただ私達は黙って、視線を絡ませ合う。 「梅ちゃん」 「あ、あの私」 直前まで考えていたことが、また頭に浮かんでくる。それもあって、いつもの何倍も恥ずかしかった。 「キス…してもいいかな」 「っ」 「ダメ、かな」 「…」 返事の代わりに、ギュッと目を瞑る。心臓が痛いほど早鐘を打って、体中が熱い。 だけど、嫌だなんて思わないから。 綾人さんの唇が、私のそれに優しく触れる。たった数秒が、とても長く感じられた。 それなのに、その温もりが離れた瞬間寂しいと思ってしまうなんて。 とても、恥ずかしい。 「あ、あの」 「何か照れるね」 私のすぐ側で、ほんのり耳元を赤くした綾人さんが笑う。その表情に、胸が締め付けられた。 何かが、溢れてくる。 「結婚…」 「え?」 「…あっ」 しまったと、思った。 気付けば、口に出していた言葉。 もう、今更しまうことはできない。 驚いたように目を見開く綾人さんを見て、今度はサーッと血の気が引いていくのが分かった。 顔は燃えるように熱いままなのに。 「ち、違うんです私っ」 「梅ちゃん」 「ごめんなさいあの」 「梅ちゃん」 「あの」 「大丈夫だから、落ち着いて。ね?」 優しく包み込まれた手。不思議と、昂った気持ちの波が引いていく。
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1244人が本棚に入れています
本棚に追加