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どうして、口に出してしまったんだろう。自分でも、分からない。
「梅ちゃん。ゆっくりでいいから、今思ってることを話してほしい」
「は、はい」
恥ずかしいけれど、だからといって変に誤魔化してもよくないだろうし。
私は素直に、おもっていることのありのままを話すために口を開いた。
「綾人さんが疲れているように見えて…それで、思ったんです。私に何かできることはないかと。少しでも、綾人さんの力になれたらいいのにと。そう思ったら、綾人さんが私に言ってくれた言葉を思い出して…」
「うん」
「もしも綾人さんとその…け、結婚したら…私は綾人さんの側にずっといられて、助けになれるかもしれないなって。そう思ったら、つい言葉に」
「そっか」
「ご、ごめんなさい急に」
「謝らないで」
綾人さんは、もう私の手をもう一度しっかりと握り直した。
「嬉しいよ、凄く」
その表情はとても嬉しそうで、また鼓動が高鳴る。
「梅ちゃんがそんな風に思ってくれて、ホントに嬉しい」
「でも私、ちゃんと返事もできていないのに」
「あれは、もういいんだ」
「っ」
瞬間、胸が軋む。すぐに綾人さんが、首を左右に振った。
「違う、そうじゃなくて。俺はあの時、とにかく梅ちゃんの力になりたかった。距離を縮めたくて、焦ってたのもあるんだと思う。それで、気付いたら結婚なんて突拍子もないセリフを口にしてた。今思うと、付き合ってもないのに失礼だよね」
「そんな…っ」
「あの気持ちは嘘じゃない。俺は、梅ちゃんと家族になりたい」
綾人さんの手が、私の頬に伸びる。そして優しく、包み込むように触れた。
「俺は、梅ちゃんのことが好きだ。これから先何があっても、俺が梅ちゃんのそばにいて守っていきたいって思ってる」
「綾人さん…」
「でも梅ちゃんにとって家族っていう存在が、いい思い出ばっかりじゃないのも分かるから。それに今は、梅ちゃんが俺の気持ちを受け入れてくれただけで十分だ」
堪らなくなって、思わず私から綾人さんの胸に飛び込んでいく。しっかりと受け入れてくれた腕の中で感じる彼の鼓動は、私のそれとリンクしそうなほどに早く感じた。
「俺を心配してくれてありがとう、梅ちゃん」
「…好きです、綾人さん」
「俺も好きだよ」
どちらからともなく、私達は再び唇を重ねた。
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