第十九章「決別か、和解か」

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「ハンバーグ、冷めちゃったね。少し温め直そうか」 「前にもこんなことがあったような気がします」 「そういえば、そうだね」 「フフッ」 お互い照れを隠すように、顔を見合わせて笑った。 それからまた食事を再開して、私は改めて綾人さんに会社で起こった出来事を話した。 電話やメッセージのやり取りはしていたけれど、綾人さんの仕事が忙しくて誕生日の遠出以降、中々ゆっくりと過ごす時間がない。 綾人さんはそのことについて何度も申し訳なさそうに謝るけれど、私は綾人さんの体の方が心配だった。 私が辛い時や悩んだ時、綾人さんはいつも駆けつけてくれるのに。私は彼に、何も返せていない。 そう思うと、気分が沈むけれど。だからって落ち込むだけでは、何も前に進まない。 もっと、強くならなければ。綾人さんが気兼ねなく私に寄りかかれるように。 まず、目の前のことを解決しよう。 伊藤さんとの、決着をつけなければ。 「そっか。梅ちゃんの側には、いい人もいっぱいいるんだね」 「はい。私は本当に、恵まれていると思います」 「梅ちゃんの力もあると思うよ」 「私の力?」 「素敵な人には、素敵な人が寄ってくるって」 「…あはは」 「あ、信じてないでしょ?俺本気で言ってるからね?」 プクッとむくれる綾人さんは、とても可愛らしい。 「少し違うけれど、似たようなことなら私も思いました」 「どんなこと?」 「視線を上げると、今まで見えなかったものが見えると言うことです。そして私が少しずつ変われば、それを受け止めてくれる人もいるということも」 「うん、そうだね」 「私なんてと怯えていた頃よりもずっと、景色がキラキラと輝いて見えます」 「凄くいいことだね」 「確かに、まだ怖いと思う気持ちはあります。だけど前よりも、昔を思い出す回数が減ったんです」 フラッシュバックと、言うんだろうか。過去に意識が引っ張られて、ボーッとしてしまうことがよくあったけれど。 いつの頃からか、それがとても少なくなった。 多分、逃げずに向き合おうと決めた時から。 その勇気をくれたのは、私の大切な人達。 もちろん、綾人さんも。 彼が私を好きだと、心から伝えてくれたあの瞬間。 私の世界は、色を付けた。 「忘れられる日は、もしかしたら来ないかもしれない。だけどそれに縛られることなく、私は私として生きていきたいです」 「梅ちゃんなら、絶対できるよ」 「綾人さんが側にいてくれるなら私は大丈夫です」 「…」 「あ、わ、私っ」 重たいセリフだったかもしれないと、慌てる。 綾人さんは口元を手で押さえて、上目遣いに私にチラリと視線を向けた。 「梅ちゃん、不意打ちするからなぁ」 「えっ」 「可愛くて困るんだよ」 「っ」 照れている様子の綾人さんを見て、私の顔にも熱が集まるのを感じた。
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