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彼女の様子から、施設にいた頃の話が鍵になっているのだと確信を持った。
きっと彼女にとって、冷静さを欠いてしまうほどの辛いこと。
だけど彼女の本質を知るためには、これしかない。
「あの子達とは、施設で伊藤さんと一緒に暮らしていた人のことですか?」
「ねぇ、そんなに知りたい?私のこと」
形容し難い笑みを浮かべながら、彼女はイスへかけ直す。
そして優雅に、足を組んだ。
「大体検討は付いているんでしょ?私がしたことと、されてきたこと」
「…憶測でしか、ありませんが」
「きっと、それ合ってると思うわ。あの男はずっと、私に乱暴してた。外面だけはいい、小児性愛者のクズ。私も、自分がされるまでずっとアイツのこといい人だって思ってた」
「…」
やっぱり、そうだったんだ。伊藤さんはずっと、口にもできないような辛いことに耐えてきた。
いい人だと信頼していた大人から、心も体もズタズタにされた。
それがどれほどの哀しみか、私にはとても推し量ることはできない。
「それでも耐えて、誰にも話さなかった。何でだと思う?私が逃げれば、他の子に刃を向けると脅されたからよ。今思えばバカげているけど、その時は従うしかなかった。私達の居場所は、あそこにしかなかったの」
「…」
「でもね、話はこれだけじゃないのよ?私が大好きで心から信じて守っている気になってた家族は、私がアイツから何をされているのか知ってた。知ってて、皆黙ってたの」
「そんな…」
思わず、口元を両手で覆う。彼女はただ淡々と、話を続けた。
「私と歳の近かった子達が話しているのを、偶然聞いたの。私一人にだけ矛先が向いている今の状況は、助かるって。住む場所は失いたくない、だけど相手はしたくない。そんな彼女達にとって、私の正義感はただ利用できるバカげた思考でしかなかったのよ」
「伊藤さ」
「可哀想だと思う?ただのバカなの。いや、バカだった。所詮私達は、寄せ集めの他人。それを家族だと錯覚して、勝手に信じた私がバカ」
「…」
「伊藤の家だってそう。十五歳間近だった私をわざわざ引き取るなんて、よっぽどの理由がなくちゃあり得ない。まぁこの家の人間のことは私も散々利用したから、あんまり言えないけど」
「前所長の罪を明るみにしたのは、やっぱり…」
「私よ?もちろん、正義感なんかじゃないけどね。でも結果として世の中のためになったわけだし、あんなゴミ男がどうなろうと誰も気にしない。アイツの家族も、アイツを捨てた。要るわけないわよね、恥でしかないんだから」
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