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映画館までの道のりを、私達は手を繋ぎながら並んで歩く。
いつも誰かの斜め後ろを歩くことが癖のようになっていた頃の私は、もういない。
そういえば今日観る予定の映画は、私も綾人さんも読んだことのある本が原作となっている。
独特の世界観がどう映像化されているのか、とても楽しみだ。
「昨日主演の女優さんのことを少し調べたのですが、他にも色々と有名な映画に出られている方なんですね」
「…」
「綾人さん?」
返事が返ってこないことを不思議に思い、彼を見上げた。
綾人さんはジッと前を見つめている。
「あの」
「…」
「綾人さん」
繋いだ手を軽く引くと、綾人さんがハッとして私に視線を移した。
「あ、ごめん!」
「どうかしましたか?」
「ん?ううん、何でもないよちょっとボーッとしてただけ」
「体調、よくないですか?」
やっぱり今日は、出かけずにゆっくりとしてもらった方がよかっただろうか。
「違う違う、どこも悪くないから」
「本当ですか?無理はしないでください」
「本当に大丈夫だから。ごめんね?」
綾人さんが眉尻を下げて申し訳なさそうに謝るから、もう言わない方がいいのかとそれ以上追及はしなかった。
今日は、綾人さんの様子をよく観察するようにしないと。もしも辛そうだったら、帰ることを提案しよう。
予定を中断するのは残念だけれど、綾人さんの体が一番だから。
それから綾人さんは特に変わった様子もなく、二人で映画を楽しんだ。
カフェに入り軽食を食べながら、お互い感想を言い合った。他にも他愛ない話をして、それをとても幸せだと感じた。
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