第二十一章「綾人、頑張る」

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「本っ当にごめん!」 プラネタリウムを出てからもう何度も、綾人さんはこうやって私に謝る。 「そんなに謝らないでください」 「でも寝るとか俺最悪じゃん」 「そんなことありません。プラネタリウムのホールは薄暗くてナレーションも落ち着いた感じでしたし、眠くなる気持ちは分かりますから」 「ホントにごめんね、梅ちゃん」 シュンと項垂れる綾人さんは、可愛い。 こうして時々見ることのできる綾人さんの可愛らしい一面が、私はとても好きだった。 「きっと疲れているんです。仕方のないことです」 「いや、そうじゃなくて」 「え?」 「う、ううん。とにかく、ごめんね」 「もう、謝り過ぎです」 そんなに私は、心許せない相手なのか。 きっとそんなことはないのだろうけど彼があまりにも謝るから、思わず頬を膨らませてしまった。 「可愛い…」 「えっ」 「梅ちゃんのちょっと拗ねたような顔、初めて見た!もう一回、もう一回見たい!」 「な、何言ってるんですかっ」 「お願い」 「嫌ですっ」 急に恥ずかしくなって、プイッとそっぽを向く。 そんな私の耳元で、綾人さんの楽しそうな笑い声が響いた。 それから目についたお洒落なカフェでお茶をして、気が付けば時間は夕方近く。最近、陽が落ちるのがだんだんと早くなっているように感じる。 「夕飯どうしようか」 ポケットから携帯を取り出した綾人さん。きっとお店を調べようとしているのかな、と思う。 「あの」 「ん?」 「綾人さんが嫌でなければ、お家で食べませんか?」 「ウチ?」 「そうすれば、ゆっくりできるかなと」 なぜか綾人さんは、とても困った顔をした。 なんとなく、今日の綾人さんは様子がおかしい。 待ち合わせに遅刻したことも初めてだし、どこか上の空だったり、プラネタリウムでのこともそうだ。 きっと、仕事が忙しくて体力的にも精神的にも疲れているんだと思う。 せめて夕飯だけでも、落ち着いて食べてほしい。 「ごめんなさい、嫌なら」 「あ…嫌とかじゃないんだ。ごめんね」 「…」 「梅ちゃん?」 「あのできれば私は、まだもう少し綾人さんと一緒にいたいなと思ってしまうのですが…わがままを言ってしまってごめんなさい」 理解のある彼女なら、今日はもうお互い家に帰ろうというのかもしれない。 私、欲張りになってしまったのかな… まだ、離れたくないと思ってしまう。 「梅ちゃん…」 綾人さんは哀しげに、私の名前を呼んだ。 「ホントにごめん、そんなこと言わせて。今日は、ウチで食べよう。俺だって、このまま梅ちゃんと別れるなんて嫌だから」 本当はまだ引っかかるけれど、それ以上追及することはしなかった。
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