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夕食を食べ終えて、二人で後片付けをする。それから買ってきたインスタントのドリップコーヒーを淹れて、お菓子と一緒にテーブルの上に置いた。
「ふぅ…」
小さなダイニングテーブルで向かい合わせに座っている私達。片付けが終わったタイミングで、やけに綾人さんの溜息の数が増えた気がする。
「…」
「あ、ごめんね?コーヒー飲もう」
「いただきます」
「熱…っ」
「綾人さん大丈夫ですか!?」
「大丈夫。フーフーするの忘れてた」
恥ずかしげにベッと少し赤くなっている舌を出して見してみせる綾人さんが、とても可愛らしい。
フーフーなんて、その言い方も。
私の分は、コーヒーミルクの代わりに牛乳を少し入れた。ちゃんとフーフーしながら口を付けると、温かさと一緒に優しい風味が広がる。
「おいしい…」
こうしてゆっくりと、二人で過ごす何気ない時間。たったそれだけのことなのに、内側から幸せが溢れてくる。
「…はぁ」
「…」
また、だ。無意識なのかもしれないけれど、綾人さんが溜息をつく度に私のこころに小さな棘が刺さっていく。
私とは、違うのかもしれない。
もしかすると綾人さんは、私とのこんな時間を退屈に思っているのだろうか。
いや、彼に限ってそんなことはないはず。
だとするなら一体、綾人さんは私にどんな感情を隠しているのだろう。
「綾人さん」
「ん?」
「私、これを飲んだら帰ります」
「え…」
綾人さんがとても分かりやすく、瞳を揺らした。
「なんでそんな…」
「綾人さん、今日一日変です。いつもと違います」
「そ、そんなことないよ」
「そんなことあります。理由を聞いてもそうやってはぐらかしてばかりだし、私もどうしたらいいのか分からないです」
「…」
「このまま一緒にいると、綾人さんをもっと責めるようなことを言ってしまいそうだし…だから今日はもう」
「ごめん!」
余裕のない表情で、綾人さんが私の腕を掴む。
「ごめん、梅ちゃん」
「…どうして、謝るんですか」
「嘘、吐いたから」
…やっぱり。
悲しくて、俯く。綾人さんが立ち上がる気配がしたけれど、顔を上げることはできなかった。
「梅ちゃん」
「…」
「こっち向いて?」
綾人さんは、私の側にいて。しゃがみ込んで、目線を合わせた。
「これを、渡したくて」
彼が手にしているのは、小さな封筒。
「開けてみて」
いまいち状況が飲み込めなくて、戸惑いがちにそれを受け取る。
言われた通りに封を開けると、中に入っていたのは鍵だった。
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