第二十一章「綾人、頑張る」

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「これって…」 「この家の鍵。大家さんに許可貰って作ったんだ」 俯いていた顔を上げる。今までに見たことがないほど、綾人さんの頬は赤く色付いていた。 「この前、梅ちゃんずっと外で待ってたでしょ?あの時思ったんだ、鍵があればいつでも中で待っててもらえるのにって」 「あ、あれは私が勝手に」 「それだけじゃないんだ。俺が、思ってるだけ。もっと梅ちゃんに、近い存在になりたいって」 「綾人さん…」 「自分がこんなに小心者だって初めて知ったよ。渡した時の梅ちゃんの反応気にして、今日ずっとそのことばっかり考えてた」 「あ…」 「嫌な思いさせて、ごめんね」 綾人さんはいつも余裕があって優しくて気遣いのできる、完璧な人。 そんなはず、ないのに。 完璧な人なんて、どこにもいない。 私と同じように綾人さんだって悩むし、相手からどう思われるかも気になるんだ。 そしてその相手が私であるということが、こんなにも嬉しいなんて。 「ありがとうございます、綾人さん」 手の平に乗せた鍵を、胸元でギュッと握り締める。 「本当に、嬉しいです」 綾人さんのテリトリーに、私を招いてくれることも。 この鍵を渡すことに、緊張して悩んでくれたことも。 今こうやって目の前で、初めての表情を見せてくれることも。 全てが特別で、愛おしい。 顔を綻ばせた私を、綾人さんが優しく抱き締める。私はとても自然に、彼の肩に頬を寄せた。 「俺、今日そんなに変だった?」 「はい、変でした」 「ハハッ、そっか」 安堵したような笑い声が、耳元でくすぐったい。 「でも我ながらおかしいよね。付き合ってもない時に結婚しようなんて言ったくせに、鍵一つ渡すのにこんな緊張するなんて」 「嬉しいです、私は」 「カッコ悪いなぁ」 「どんな綾人さんも好きです」 「俺も」 綾人さんが、少しだけ体を離す。それがキスの合図だと分かるのは、もう何度も交わしているから。 触れ合う綾人さんの唇は、なんだかいつもよりも熱く感じた。
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