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ーー後日、夕食後に栞おばさんと優一おじさんと善君に、話があるからと時間を作ってもらった。
栞おばさんが簡単に説明だけしてくれていたようだけれど、私の身に起こったことを三人の前で改めて話した。
「梅ちゃん、本当によく頑張ったわ」
「強くなったんだなぁ」
栞おばさんは目に涙を浮かべながら、私をギュッと抱き締めて。優一おじさんは感慨深そうにそう呟いた。
「梅ちゃんが決めたことに口出すつもりはないけどさ、俺はちょっと納得いかない。何も制裁なしとか」
善君は、私の気持ちに寄り添って怒ってくれる。
この家の誰もが、私のことを考えてくれている。
大切な大切な、私の家族。
「ありがとう、善君。でも、そう決めたの。憎しみの感情に囚われて生きていきたくない。私の、未来のために」
「そっか、分かった。もう何も言わない」
「本当に、ありがとう」
未来のため。
ずっと、今を生きることが精一杯だった。
先のことなんて、考えられなかったけれど。
これからも、皆と一緒に生きていきたい。
笑い合いながら、幸せに。
「梅ちゃん、梅ちゃん」
栞おばさんが堰を切ったように、ポロポロと涙を溢した。
「ごめんね、ごめんね梅ちゃん」
「ど、どうして謝るんですか?」
「梅ちゃんがずっと、過去のことに怯えて生きてきたことを知っていて、私達は何もしてあげられなかった。ここに来てすぐの頃何度か病院にも通ったけど、余計に怖がってしまって。優一さんと私は、普通でいることが一番だと思ったの。だけどもっと、できることがあったかもしれないのに。辛い思いを、させてしまった」
「そんなことありません。私はそれが、とても嬉しかったです。三人が私を特別扱いせず、当たり前のように普通に接してくれたことで、私がどれだけ救われたか。本当に本当に、感謝の気持ちでいっぱいなんです」
「梅ちゃん…」
「菫さんのことも、栞おばさんのおかげなんです。私の母のことを聞いた時、恨む気持ちより、大切な家族と生きていく未来を考える方が大切だって。そう言って笑う栞おばさんを見たから、私も彼女を許そうと思えた。一人ではきっと、そんな風には考えられなかったから」
涙を堪えながら、ニコリと笑って見せる。栞おばさんも泣きながら、同じように笑ってくれた。
「私は、三人が大好きです。これからも蓮見家の一員として、生きていきたいです」
「当たり前じゃないか。梅ちゃんがいなくちゃ、俺達だって笑って生きていけない」
「梅ちゃん、ウチに来てくれてありがとう。梅ちゃんみたいな優しい子に出会えて、私達は本当に幸せよ」
「…っ」
胸がいっぱいになって、我慢していた涙が目尻から零れ落ちた。
「もー、皆して泣くなよな。ほら」
善君が笑いながら、タオルを差し出してくれる。
「ちょっと善、私には?」
「母さんは無理だろ?タオルじゃ追いつかない」
「本当だな」
「もう、笑わないでよっ」
「アハハ」
私は、幸せだ。
この家に来た時から、ずっと。
ただ、それに気が付けなかっただけ。
私の家族は、いつだって温かい。
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