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「大変ご迷惑をおかけしました」
平日の終業後、菓子折りを持って改めて浜松リーダーに謝罪と報告をした。
「話しがついてよかったね」
「はい、こんなことはもう二度とないと思いますので」
「俺のことはいいんだよ。一番辛かったのは蓮見さんなんだから」
工場内に蔓延していた噂も、時と共に徐々に風化していった。
浜松リーダーを始め、早川さんや佐々木さんが噂を否定し続けてくれたこともとても大きいと思う。
私自身も、俯くことをやめた。ただ、課せられた業務をしっかりとこなすだけ。視線や陰口が辛くても、それが原因で作業に支障をきたすことだけは避けたかった。
「浜松リーダーには本当に、感謝してもしきれません」
騒ぎを起こした私はきっと、辞めるように言われてもおかしくはなかったのかもしれない。
それがなかったのは、リーダーのおかげより他はない。
「蓮見さんは入社してから今までずっと、誰よりも真面目に働いてくれているから。根も葉もない噂が広まって、腹が立って仕方なかったんだよ」
「だけど私は今まで、無意識に人と壁を作っていました。自分を知られることが怖くて、人が怖くて、向き合うことができなかったんです。これは、今まで私がしてきたことの結果でもあるのだと思います」
「蓮見さん…」
「これからは、自分も変わる努力をしていきます」
浜松リーダーは目を細めて、本当に嬉しそうな顔で私を見つめた。
「蓮見さんはもう、勝手に娘みたいなもんだと思ってるからなぁ」
「ありがとうございます」
「これからも何かあったら、周りを頼るんだよ」
「はい、よろしくお願いします」
今までの感謝の気持ちも込めて、深々と頭を下げる。きっと私の知らないところでも、たくさん庇ってくれたのだろうと思う。
心の温かな人達に囲まれて、私は本当に恵まれていると改めて心に刻んだ。
同時に、菫さんの哀しげな顔を思い浮かべる。
これからは、彼女にも幸せがたくさん訪れますようにと、沈む夕日に願った。
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