最終章「あの約束をもう一度」

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最終章「あの約束をもう一度」

「梅ちゃん、誕生日おめでとう」 「ありがとうございます、綾人さん」 「ろうそく消して?」 「はい」 一生懸命息を吹きかけたけど、ケーキの上に刺さっているろうそくの火の、最後の一本が中々消えない。 「綾人さん」 「アハハ。一緒に消そうか」 寄り添って、二人でフーッと息を吹いた。 ゆらゆら揺らめいていたろうそくが、フッと消える。 「大好きだよ、梅ちゃん」 「私も、大好き」 小さく笑い合った後、二十一歳になって初めてのキスを、綾人さんと交わす。 私達の左手の薬指には、真新しく輝くプラチナリングが光っていた。 ーー私は、二十一歳になった。相変わらず、工場で精密機器を組み立てる毎日。同じ作業だからこそ慢心しないように、いつも心がけている。 「蓮見さん、昨日回ってきた工程変更の資料のことなんだけど」 「あ、はい」 「ここがちょっと理解し辛くて」 「これは、えっと…」 できるだけ丁寧にゆっくりと説明をする。こんな風に誰かに教えるということは、案外難しくて。 自分は理解しているから、ついその前提で話をしてしまうこともしばしば。 家に帰り、今日の自分を反省することもよくあった。 だけどそれは、マイナスではない。明日からの自分を改善するための、プラスの思考だ。 「蓮見さん」 昼休憩が終わる少し前、浜松リーダーが私の側へとやってくる。 「いつもフォローありがとう。助かるよ」 「そんな、私は…」 「皆言ってる、蓮見さんは変わったって。あ、昔の蓮見さんがダメだったって意味じゃないんだよ?」 「いえ、嬉しいです。自分なりに、変わる努力をしてきたから」 控えめに笑えば、浜松リーダーはしっかりと私の肩に手を乗せた。 「あぁ、もう休憩終わっちゃうわ」 「あ、早川さん。この間はとうもろこしありがとうございました。家族皆でおいしくいただきました」 「それはよかった!またお裾分けあったら持ってくるわね」 ニッコリと笑いながら私の腕をとんとんと叩く早川さんに、私も同じように笑顔を返した。
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