最終章「あの約束をもう一度」

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土曜日、私は佐々木さん親子と近場の公園にピクニックにやってきた。 周りから少し離れた日当たりの良さそうな場所を選び、そこに大きめのシートを敷く。 「少し肌寒いね」 「でもよかったです。いいお天気で」 この一年で、佐々木さんとさらに距離が縮まったように思う。誰かを誘うということが苦手だった私だけれど、今では自分からも彼女に声をかけられるようになった。 「その車覚えたよ。モーターグレーダーだよね?」 最近の誠君は、工事車両に関心があるらしい。この間教えてもらったモーターグレーダーという整地作業をする車を、今日もしっかりと手に持っている。 「…」 誠君は何も言わないまま、私の座っている場所の近くでその車を走らせる真似をした。 警戒している人の側には、近寄りもしない。 以前、佐々木さんはそんな風に言っていた。この一年で誠君は、なんとなく私への警戒は解いてくれたのではないかと思う。 「素敵な指輪だね」 「あ…」 誕生日の少し前に綾人さんからもらったペアの指輪。仕事中はもちろんのこと、休日以外では嵌めていることがないから、そういえば佐々木さんの目の前でしているのは初めてかもしれない。 「もしかして、結婚指輪?」 佐々木さんには、もう何度も綾人さんの話を聞いてもらっている。一度、工場の近くで待ち合わせをしていた時に彼女に出会した時も、綾人さんは丁寧に挨拶をしていた。 「違うと思います…多分」 「多分?」 体操座りで膝を抱えながら、歯切れ悪くそう答える。佐々木さんは、不思議そうな顔をした。 「綾人さん、私の左手に嵌めてくれたんです。綾人さんの左手にも、この指輪と同じものが嵌められていて。だけど、他には何も言われなかったから…だから、誕生日のプレゼントなのかなって」 「でも、それ凄く高価なものに見えるけどなぁ」 「やっぱり、そうですかね…」 「いやごめんね?私が色々言うのもおかしいよね」 申し訳なさそうに笑う彼女に、私はブンブンと首を左右に振った。 「聞いてほしかったんです。私も、少しモヤモヤしてたから…どんな理由にせよもちろんこのプレゼントは嬉しいんですけど、なんとなく気になっちゃって」 私にこれをくれた時なんとなく、綾人さんが何か言いたげだったような気もしなくもない。 だから余計に、心に引っかかっている。 「まぁ、ペアの指輪はカップルの定番といえば定番だし」 「そういうものなんですね」 「だけどもし、今彼にプロポーズされたらって想像したことある?」 「想像…」 綾人さんと、家族になる。 そうなれたら、きっととても嬉しいことだけれど。 具体的に考えたことは、まだなかった。 それに私の中にはまだ、小さな小さな欠片が残っている。 私が家族になることが、本当に綾人さんの幸せに繋がるのだろうかって。
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