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シートの上で持ってきた車のおもちゃを綺麗に一列に並べている誠君を、ジッと見つめる。
「彼との未来が想像できないわけではないけれど、家族になるということがまだいまいち分からないです」
「そっかぁ。結婚って、難しいよね。それがゴールじゃないし、付き合ってる時にはなかった問題もたくさん出てくるし」
「ごめんなさい、変な相談」
「やだ、気遣わないで?それに聞いたのは私だから」
佐々木さんは、誠君のことで意見が合わなくて前のご主人と別れてしまったと言っていた。
だけど彼女が、ご主人のことを悪く言っているのを私は聞いたことがない。
「私もあの人とは、おじいちゃんとおばあちゃんになるまでずっと一緒にいるんだって当たり前に思ってた。だからかな、安心しちゃってた部分もあるんだと思う。何を言っても許される、家族なんだからそんなの当たり前のことだって」
「…」
秋の爽やかな風が、私達の頬を撫でる。なびく髪を押さえている佐々木さんの横顔は、とても綺麗だった。
「家族になるって、当たり前じゃない。お互いが努力して、思い遣りながら作っていくものなんだろうね。私にはそれが足りなくて、彼もそんな私に疲れたんだと思う」
「佐々木さん…」
「でもね?今、幸せなんだ。大変だと思うこともたくさんあるけど、結婚しなきゃよかったなんて思ったことは一度もないよ。この子が産まれてくれて、それだけでこんなに感謝することってないから」
「凄く素敵です。佐々木さんの考え方」
「ちょっとカッコつけちゃった」
照れたように笑う彼女は、可愛らしい。
「ていうかごめんね?なんか途中から私の話になっちゃって」
「聞けて嬉しかったです」
「あれ、私何が言いたかったんだっけ。忘れちゃった」
「アハハ」
「でもさ。結婚して一番大切なことって、とにかく話し合うことだと思うんだ。もし蓮見さんが気になってることがあるなら、素直に彼に聞いてみてもいいんじゃないかな?とっても優しそうな人だったし、きっと受け止めてくれると思う」
「そう、ですよね。少し、怖いけど」
「それも含めて、蓮見さんのタイミングで打ち明けてみてもいいと思う」
「ありがとうございます。勇気が出ました」
「ホント?途中から何言ってるのか自分でも分からなくなっちゃった」
そう口にする佐々木さんと顔を見合わせて、二人で笑った。
「そろそろお弁当食べますか?」
「そうだね、食べようか」
私達の言葉を聞いて、誠君がパッと車遊びをやめて目を輝かせる。それを見てまた、笑い合った。
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