最終章「あの約束をもう一度」

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そんな話を佐々木さんとした何日か後。今日は綾人さんと約束している日。少し仕事が遅くなるから家で待っていてほしいと言われて、私は合鍵を使ってドアを開けた。 この鍵をもらったのは、もう随分前のこと。初めは家主不在の部屋に入るなんて、と気が引けて中々使うことができなかった。 だけど仕事が多忙な綾人さんに家でゆっくりしてもらいたいという思いと、平日少しでも会いたいという理由から私が綾人さんの家に先に入り、夕飯を作って待っているということも増えて。 「お帰りなさい」と言って彼を迎えると、いつだって本当に嬉しそうな顔をしてくれるから。 そんな彼を見ていると、私にできることがあるなら何でもしたいという気持ちが日に日に増えていく。 そんなこともあって最近ではすっかり、合鍵を使うことに慣れてしまったのだった。 綾人さんも慣れたのか、今朝は急いだんだろうな、とか今週は忙しかったんだろうな、なんて分かる散らかり方をしていることもしばしば。 あんまり勝手にいじることはしないけれど、その光景を見るとなんとなくムズムズしてしまっていた。 「よし」 明日は、二人とも仕事が休み。今日は綾人さんの家に泊まらせてもらう予定だ。 いつもより少しだけ気合を入れて、品数を多めに作った。 綾人さんの好きな鶏の天ぷらは帰ってきてから調理するとして。 こんにゃくと蓮根の煮物と、揚げ出し豆腐は準備ができた。あとは冷蔵庫にマグロとアボカドのわさび和えと、お鍋にお吸い物が入っている。 綾人さんが和食好きだと知ってからは、色々な本やインターネットで調べながらレパートリーを増やそうと奮闘中だ。 ほどなくして、カチャンと鍵の開く音が聞こえて。サッとイスから立ち上がって、パタパタと小走りで玄関へ向かった。 「ただいまー」 「綾人さんお帰りなさい。お疲れ様でした」 笑顔で、出迎える。瞬間、綾人さんからギュッと抱き締められる。 「梅ちゃんだぁ」 「あ、綾人さんっ」 「疲れた…」 「…」 私の肩口に顔を埋める彼の頭を、ゆっくりと撫でる。少しでも力を分けてあげられたらなんて、そんな意味も込めながら。 「本当に、お疲れ様でした。綾人さん」 「梅ちゃんの顔見たら元気出た。待っててくれて、ありがとう」 「先にご飯でいいですか?」 「うん、嬉しい」 「じゃあ、用意しますね」 体を離してキッチンへ向かおうとする私の腕を、綾人さんが掴む。 振り向きざまに、チュッとキスをされた。 「ただいまのキス、まだだったから」 「も、もうっ」 恥ずかしさからプクッと頬を膨らませる私を見て、綾人さんは満足げに笑った。
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