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10.私たちの精霊
グリーウォルフ家の一角。花壇も生垣も植物も何も植えていないただただ芝生が広がる庭に今、土の壁がせり上がって行く。私、セバスチャン、ライアン、ジャックの四人の土の精霊の力で高さ3メートルほどの客席のない小型コロッセオのような建造物がもりもりと盛り上がる土で形作られていく。
小型コロッセオの中は直径7メートル程で外壁の外側には中を覗き込めるようにぐるりと人一人が立てる位の通路と通路に繋がる階段が一つ付いている簡素なものだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
レニーの慌てた声が響く。
「ジャック! 君は火の精霊だったはずだ。なんで土の精霊がいるんだ?!」
「あー言ってなかったっけ?」
至っていつもの調子で私を親指で指しながら
「フェリックスに紹介してもらった」
「は?!」
とジャックは言ったがそんな説明ではレニーは納得するはずもなく、意味が分からないと顔にありありと書いてある。そんな彼に私は苦笑しつつ簡単に説明をした。
セバスチャンが私にしてくれたように、私の土の精霊ダイちゃんに無絆の土の精霊を紹介してもらいジャックと土の精霊との間を取り持った事。
そして、私たちは互いにそうやって精霊との絆が増えている事。
話を聞きながらもレニーは信じられない様子で首を振った。
「そんな話聞いた事ないよ!」
「私もだ。だが、事実なのだよ。この私も今だに信じられんがね! はっはっは!」
レニーの驚きを肯定し豪快に笑ったダンテは私たちの顔を見渡した。
「皆の精霊を見せてあげてはどうだね?」
「いいですけど」
私たちはそれぞれの精霊たちを呼び出すと、レニーの顔は更に驚きの色に染まる。
ジャックは火、土、風の三精霊。ライアンは木、土、水の三精霊。セバスチャンは風、土、水、火の四精霊。そして私は土、風、火、木、水の五精霊がそれぞれの周りに現れている。
面白いことに精霊たちは同じ火の精霊でも微妙に姿が違う。同じ日本人でも顔が違うように絆者の影響を受けてなのか、はたまた元の精霊の性格も相まってなのかは知らないが、十人十色で面白い。
「そんな……どうなってるんですか?」
「どうなってるんですかって言われてもな。ん〜」
腕を組み、難しい顔をし唸るジャック。ライアンは肩を竦め、セバスチャンは頭の後ろで両手を組んだ。
「気づいたらこうなってたしな」
「そうそう。お願いしたら精霊たちが連れてきてくれたんだよ。レニーも頼んでみたら?」
「えぇ?!」
頼むって……と口籠ったレニーの様子に私は頬を掻いた。
私はこのグリーウォルフ家を中心とした狭い世界でしか生活していないのだが、その中でも最近わかって来たこと。それは精霊という存在を人は“使役”するものという考えであるという事だった。意思疎通の練習はするが、それはコミュニケーションという意味ではなく人の意思通りに確実に使役する為。だから、精霊に頼み事をするという感覚は大多数の人は持っていない。
「…………フェリックスが一番精霊多いんですね」
「なんか懐かれるよな。フェリックスは精霊に」
じーっと私を見て言ったレニーの言葉に反応し、ジャックも私を見ながら言う。その言葉に私はハハハ、と苦笑した。
なぜなら皆の精霊たちは大人しく側に寄り添い浮いているのに対して、私の精霊たちは呼び出した瞬間からキャッキャッと戯れ遊んでいた。それだけならまだしも、それを横目で見ていたセバスチャンたちの精霊たちにもちょっかいを出し始め、しまいには私の周りで15体の精霊たちが追いかけっこしたり、取っ組み合いでじゃれあったり、私に体を摺り寄せたりして遊んでいる。
気分は保母さんだ。ん…………? 今は体の性別は男性だから保父さんかな?
「兄さん、なんでこんなに懐かれるんだろ?」
「なんか精霊を惹きつける汁でも出してるんじゃないか?」
「ちょっとライアン。虫みたいな言い方しないでよ。そんな汁出てないよ」
眉を顰めた私にライアンは笑う。
「すまんすまん。いや、なんか樹液に集まる昆虫みたいに見えるからさ」
普段、草木と接しているライアンの目には私が樹木で精霊たちがカブトムシかなんかに見えるらしい。はぁ、と一つため息を吐いた私は手を2回叩いて精霊たちを見た。
「はいはい、みんな! ちゃんと元の位置に戻った戻った!」
私の言葉に反応し、精霊たちは各々の絆を持つ者の側へと戻る。
「ほんと、こんなの見たことないですよ」
しみじみと呟くレニー。
「どうせならもっと驚いてもらおう」
ダンテはそう言うと笑顔で私の顔を見た。
「最初はフェリックスからだ! 守りは2人にしてみるかね?」
「はい! お願いします!!」
「うむ。では、ジャックとセバスチャンが守りだ。各自、準備したまえ!」
「…………一体、何が始まるんだ?」
動き出した私たちの様子を目で追いながらレニーは固い面持ちで呟いた。
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