12.風呂小屋

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12.風呂小屋

「……フェリックスぅ~~~!」  ライアンの静かな怒気を含んだ声に私は首を縮ませた。 「お前な! 少しは加減てもんを考えて力を使え!!」 「はいぃぃっ!」  ライアンの怒鳴り声に私の後ろに精霊たちが隠れた。 「まぁまぁ」  苦笑を浮かべ、ライアンを宥めるレニーは頭から泥を被りせっかくの美少年が台無しで、それはレニーだけでなくライアンもセバスチャンもジャックもそうだった。 「うむ。あそこまでの勢いを作れるとは天晴れだ!!」  そう言ってはっはっはと笑ったダンテ教官は顔面に思い切り泥を受け止め、今や目と口を開けた時に見える白い歯が泥のお面に浮かんでるようで不気味である。 「ご、ごめんなさい……」  地面から飛び出す時、勢い余ってまるで間欠泉のごとく吹き上がった泥水に全身ぐちゃぐちゃの皆に申し訳なく身を縮こませる私にジーナたちが慌ててタオルを持って駆け寄って来た。 「皆様、どうぞまずこちらでお顔をお拭きください。お風呂の用意をしておりますので、風呂小屋へどうぞ」 「風呂小屋?」  侍女から受け取ったタオルで頬を拭いながら言葉をおうむ返しするレニーにジャックがニッと笑う。 「ふっふふ〜驚け、レニー! この風呂小屋がスッゲー気持ちいいんだよ。これを知られたくなかったんだけどなぁ」 「いや、なんで君がそんなドヤ顔なの?」  顎に手を当て泥まみれでカッコつけて言ったジャックに呆れ顔を見せたレニーは、小さく息を吐き出しグイッと髪をタオルで掻き上げるように拭った。 「一度に色々ありすぎてもう何を見ても驚かないかな……」 「あはは」  若干遠い目をしているようにも見えるレニーに私は笑い、そして皆と件の“風呂小屋”へと歩く。向かう場所はトレーニングをしていた庭の外側を縁取るように伸びる木を挟んだところに建てられた小さな木造の小屋。  お風呂と言えばやっぱり檜風呂!! と言うことで、この世界に転生して初めての私の贅沢がこの風呂小屋の建築である。わざわざ質の良い木材を探して取り寄せ、腕の良い大工にイメージ図を見せながらのプレゼンテーション。木造のお風呂という概念のないこの世界でお風呂場に木材を使うということへの納得と理解を得るのは予想以上に骨が折れたが、お陰で想像より良いものが出来たと満足している。 「ふふふ。驚かなくても気に入ってくれると嬉しいなぁ」  レニーに言いながら私は小屋の扉を開けた。  小屋の中は入ってすぐ衣服を置く為の脱衣棚と長椅子を置いた脱衣スペース。内扉を開けるとその中は大人3人が一緒に入っても手足が伸ばせるサイズの大きな浴槽と絶えずお湯が流れている太めの水路が壁側に設置されていて水路の前には木桶と木の風呂椅子が並ぶ。風呂小屋内はもちろん全て木造! 「うわぁ!」  ふわりと頬を撫でる柔らかな湯気と木の優しい香りに目を丸くしているレニーにジャックとセバスチャンがニヤニヤと笑う。 「あれ〜? 驚かないんじゃなかったっけ?」 「驚いちゃった? 驚いちゃった?」 「うっ」  からかう2人に言葉を詰まらせたレニーに私はついつい笑みが漏れる。 「ふふふっ。ささ、脱いで脱いで。入って入って!」  初めて風呂小屋に入る人の反応って面白くて大好きな私は早く入って欲しくてレニーの背を押し勧め、セバスチャンが服を脱ぐのを手伝いながらジーナが持ってきた大きな籠を指差した。 「服はこのカゴに入れてね」 「皆様がお上がりになるまでに洗濯いたしますので、ゆっくり汚れを落としてくださいませ」  ニッコリと微笑みジーナは一礼して籠を置いて風呂小屋を後にした。  大きなお風呂にたっぷりの綺麗なお湯は極楽そのものである。この風呂小屋を作った理由がトレーニング後の汗を流す為と、屋敷の皆の日々の疲れを癒してもらう為なのだが、困ったことが1つ。子供たちだけでお風呂に入るのは良い。小さい頃、弟たちをお風呂に入れていたのと何も変わらないから。しかし! 15歳になったライアンと大人のダンテは別だ!! はっきり言って目のやり場に困る。恥ずかしい!  もう子供とは呼べない年齢になったライアンは大人と少年の間でありながらも美しく引き締まった肢体をしているし、ダンテは男らしい筋骨隆々とした逞しい肉体がドキドキするのだ。 (とは言っても私だって今は男の子なんだから恥ずかしがるのはおかしいよね。ふつうにふつうに。なんでもないなんでもないなんでもない……)  私はなるべくライアンとダンテの方を見ないようにしながら心の中で繰り返し呟き、雑に頭から湯を流して湯船に飛び込もうとしたセバスチャンとジャックを捕まえ、彼らの汚れ落としに意識を集中することにした。
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