20.お菓子作り教室初日 2

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20.お菓子作り教室初日 2

 子供らしい元気さは繊細さに欠けるとも言える。ブランシュはまさに子供らしい動きで力の加減が強く威勢が良い。それは彼女の兄、ジャックにも言える事で流石兄妹と言うべきか。  グイグイと生地に全体重を乗せるように麺棒を動かすブランシュ。お陰で伸ばされていくクッキー生地がデコボコしているのだがブランシュの意識は伸ばすことだけに向いている。 「のびましたわ!」 「う、うん……」  満足そうな笑顔を見せるブランシュに曖昧に頷いてしまう私。チラリと視線を横にずらせば、サーラの伸ばした円の形は歪だが薄さはほぼ均一のクッキー生地がある。  二人に同じように手本を見せながら説明したんだけどなぁ……と思うも、まだ子供だし性格や個性の違いもあるから仕方ないと気持ちを切り替えて私はクッキーの型を二人に手渡した。 「はい。じゃあ型抜きしましょう」 「はい!」 「やりますわよ!」  型を受け取り笑顔で元気よく返事をする二人。  広げた生地の真ん中にガンっと型を押し付けるブランシュと生地の端から丁寧に生地を抜いていくサーラ。  私は見守る事に決め、二人の様子を眺めていた。  どんどんと丸と三角のクッキーの元がお皿の上に並んでいくのを確認し、オーブンの用意をしようと薪を手にオーブンの前へ移動した。  そんな私の様子を何故か素早く察知したブランシュが型抜きもそこそこに私へと顔を向ける。 「何をするんですの?」 「えっ? クッキーを焼く為にオーブンの準備をしようと思って……」 「オーブンでしたらこの私の火の精霊の出番ですわね!」  火の精霊持ちのブランシュが小さな胸を張って自信たっぷりの顔をしている。しかし火力の調整の事を考えると少し難しいような気がしてやんわり断ろうと思ったのだが………… 「ブランシュ様は火の精霊さんとおともだちですものね! 羨ましいですわ。私には火の精霊さんはおりませんので焼くのはお願いするしかありませんし」  可愛らしい笑顔でブランシュへ尊敬にも似た眼差しを向けながら言ったサーラに先を越されてしまった。そうするとブランシュの自尊心はくすぐられ、更に得意気な表情を浮かべ顎もますます上を向く。 「ハシュウェル家は代々火の精霊との絆を持つ家系ですから、クッキーを焼くことくらいどうってことありませんわ! サーラの分もいつでも焼いて差し上げてもよろしくってよ!」 「わぁ! 嬉しいですわ、ブランシュ様」  キャッキャと盛り上がってる二人を見ていると、断りを入れる事が心苦しくなってきた。 (結果が想像着くけど、もしかしたらとても火の精霊の扱いが上手い可能性もあるし、出来ないと決めつけるのもダメだよね。何事も経験! だよね…………) 「えっと……じゃあ、お願い、しようかな……」 「えぇ、お任せになって!」  私の心の内など知らないブランシュはとても良い笑顔で胸を叩き、サーラは笑顔で拍手を送る。  胸中に一抹の不安を抱えながら、私は薪を入れたオーブンの前にブランシュを招いた。
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