4.アルゲンタム生誕パーティー

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4.アルゲンタム生誕パーティー

 豪華な飾り付けと管弦楽の優雅な生演奏が響く広い謁見の間には、今はたくさんの美しく美味しそうな料理が並び、着飾った貴族の子供たちがひしめいている。  今日、アルゲンタムは12歳になる。  背が伸び、儚げな美しさに磨きがかかったこの国の第一王子の生誕日を祝う為の宴は二回催される。貴族の子供たちだけが招待されたお茶会の拡大版のような今日と、貴族たちを招待する日と分けられる。  この子供達だけのまるで夜会の予行演習のようなパーティーでも、すでに大人たちの欲望や陰謀。黒いドロドロとした策略などを刷り込まれている子供たちは少なく無い。それがまだ相手の決まっていない第一王子の生誕パーティーとあれば尚更だ。第二王子のアウルムは先日ブランシュとの婚約を結ぶ事が決まり婚約式を控えている。運良くアルゲンタムと年の近い娘を持つ欲深い貴族たちは色々と子供に言い含めているのだろう。少女たちからは並々ならぬやる気が滲み出ていた。  アルゲンタムの周りだけ人口密度の高い様子を横目で見ながら、安全地帯と化しているセバスチャンとサーラはのんびりと飲み物片手にお菓子に舌鼓を打っていた。 「よぉ、セバスチャン。サーラ」 「ジャック」 「ジャック様。ご機嫌麗しく」  片手を上げながら軽やかな足取りでやって来たジャックにセバスチャンは笑顔を向け、サーラはドレスの裾を摘まみ優雅に可愛らしくお辞儀をした。  そんな二人にいつもと変わらない笑みを向けながらジャックはスススっと二人との距離をいつもより縮める。 「どうしたの?」 「いやぁ……なんつーかさ。最近、ご令嬢方がやたら話しかけてきてさ。一応笑顔で相手しないとブランシュにグチグチ言われるし、親にも小言言われるしでさー」  はぁ、と溜め息を吐くジャックにセバスチャンとサーラは良く分かっていない表情で瞬きをした。 「楽しくないの?」 「そりゃそーだろー! ドレスがどーのとかネックレスがどーのとか言われても何が良いのかまったくわかんねーしさ」  ぶぅ、と口を尖らせながら言うジャックの背後から 「そう思っていても態度に出してはダメですよ、ジャック」  と、爽やかな少年の声がした。 「レニー」  穏やかな微笑みを浮かべるレニーはセバスチャンたちの輪に加わりながら、ジャックへと少し困ったような表情を向けた。 「ベーム侯爵のご令嬢から逃げたでしょう?」 「そりゃ逃げるぜ。ドレスの自慢とかアクセサリーの自慢しかしねーし。それにベタベタ触ってくるし!」    思い出して嫌そうに眉を歪めるジャックにレニーは小さく咳払いをした。 「ジャック」  苦笑まじりに向けるレニーの視線は、大きい声で言うなと語っていてジャックは下唇を大きく前へ突き出し押し黙った。 「……まぁ、でも、ジャックの気持ちも分からなくは無いです。私も少し疲れました」 「お! 何だよ、一緒じゃねーか」  嬉しそうに言ったジャックにレニーは小さく肩を竦めた。  アルゲンタムと同じくまだ相手のいない騎士団長の息子のジャックや宰相の息子であるレニーも貴族たちの地位と権力拡大の為の政略としては美味しい物件であり、ご令嬢たちからの熱烈アプローチに辟易していた。何せまだ齢12、11の歳の男の子である。無理もない話だ。 「なんか良くわからないけど、大変だね」 「えと、あまり、ご無理なさらないでくださいませ……?」  まだお子ちゃまでありつつも、すでに半分身持ちが固まったも同然のセバスチャンとサーラは分からないなりに励まそうとしたのだが、ジャックとレニーは盛大な溜息を吐いた。 「あぁ、ところでフェリックスは元気ですか?」 「うん。元気だよ。明日はね、兄さんがチーズケーキを焼いてくれるんだ!」  レニーの問いかけに笑顔で自慢を込めて返したセバスチャンは、ねー、とサーラを見た。 「はい。とっても楽しみですね」 「なんだ〜? サーラも食べるのか?」 「だってサーラを招いてのお茶会なんだもーん」  へっへ〜と得意げに言ったセバスチャンにジャックはニヤっと笑う。 「じゃあ、俺も行こうかな〜人数多い方が楽しいだろ? な、サーラ?」 「あ、じゃあ私も参加しましょうかね。久しぶりにフェリックスにも会いたいですし」 「えぇ?!」  不満そうな声をあげたセバスチャンだが、ジャックとレニーはサーラだけを見てニコニコと話を進める。 「サーラ。美味しいベリーのジャムが手に入ったんだよ。明日、一緒に食べないかい?」 「あ、俺はなんかうまい紅茶があるから持ってくよ。な、だからいいだろ、サーラ」 「え、あ……の、その」  オロオロと二人の顔を交互に見てたサーラは困ったようにセバスチャンを見て、実に困ったように 「あの、セバスチャン様……お二人ともこう言われておりますし、その……」  言い淀み、モジモジと上目遣いにセバスチャンの様子を伺うサーラ。サーラの性格では提案するのも憚られているのが手に取るようにわかる。そんな様子も可愛いくてずっと見ていたくなるが、セバスチャンはワザと大仰な溜息を吐いた。 「仕方ないなぁ。いいよ、二人とも来ても」  尊大な態度で小さな体で胸を張って言ったセバスチャンにジャックとレニーは笑みをこぼした。  年上のしかも家柄としても地位が上のジャックとレニーに対する態度としては好ましいものではないが、お互いもう気心が知れた仲としての友人同士としての付き合い方が彼らのやり取りを許容していた。 「よっし、決まり!」 「楽しみですね〜フェリックスのお菓子」 「とっても美味しいんだよ!」  セバスチャンたちはそのままアルゲンタムの周りが少し落ち着くまで おしゃべりしたり、お菓子や飲み物を楽しむ事にしたのだった。 
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