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6.フェリックスからのプレゼント
外の冷たい夜気で部屋の中も少し肌寒く感じる中、早々に侍女を下がらせアルゲンタムは一人部屋のソファに座っていた。
アルゲンタムの前には重厚な造りの黒い丸テーブルがあり、その上には温かいミルクティーの入ったティーポットとフェリックスからのプレゼントと手紙が置かれ、バラのミニブーケは今は綺麗に花瓶に生けられ、暖炉の上に飾られている。
プレゼントのレース袋に手を添えていたアルゲンタムはリボンをほどき中身を取り出した。中から出てきたのは緑から薄緑色の柔らかなグラデーションが優しい印象を与える手編みのショートガウン。
2、3度瞬きをしたアルゲンタムはそれを広げて見て、そして袖に腕を通してみる。太めの筒状の袖はアルゲンタムの腕より明らかに長くそして大きく、ガウンの裾は膝裏まですっぽりと覆う。
指先まで隠れた袖をマジマジと見つめ、裾を持ち上げその毛糸の温かい柔らかさをひとしきり確かめた後アルゲンタムは手紙を開いた。
“ アルへ
お誕生日おめでとう。
染色に関する本を見つけたので自分で毛糸を染めてみました。
本当はもっときれいに均一な緑色になるはずなんだけど、ムラになってしまいました。
ごめんね。次はもっときれいに染められるようにするからね!
それから、間違えて大きく編んだんじゃないです。
長く着られるように大きめに作ってみました。
気に入ってくれると嬉しいです。
これから寒くなるから身体を冷やさないようにね。
笑顔多き幸せな年となりますように。
フェリックスより"
手紙を何度も何度も読み返したアルゲンタムはフッと口元を緩め自分が身に纏っている物を見た。
貴族の、ましてや王族であるアルゲンタムたちの世界では長く着られるように、という感覚は無い。その時その時に合わせて服を作らせるのが当たり前であり、体のサイズに合わない服を着るなど到底考えられない事だった。だから、最初は手紙に書いてある意味がアルゲンタムには良く分からなかった。
「……確かにこの大きさなら来年も再来年も着れそうだ」
クスクスと静かに笑うアルゲンタムは、この同じ歳の少年が時折垣間見せる妙に所帯染みたところが新鮮で可笑しいと同時に心地良くも感じていた。
フェリックスに会えなくなってしまった事は寂しい。しかし、手紙のやり取りや贈り物から伝わる温もりはどんなに離れていてもフェリックスが見守ってくれている。想ってくれていると実感でき、その度にアルゲンタムは冷え切っていた自分の心に熱が戻ってくるような気がしていた。
アルゲンタムはもう一度右左とショートガウンを腕や背面、裾を見て背中の腰辺りに縫い付けられている同じ毛糸で編まれた紐ベルトを巻いてみた。
やはり紐ベルトも長く、体にぴったりとショートガウンを巻いて縛ってみると小さな少年の背中まですっかり包まれた。
「これは、さすがに大きすぎるな……」
嬉しそうに呟いたアルゲンタムは体を包むガウンの襟元を両手で口元まで引き上げ深く深く息を吸い込んで目を閉じた。
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