9.レニー参加のトレーニング

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9.レニー参加のトレーニング

「はぁっ……はぁっ……っ!」 「さぁ〜諸君! 次は剣の素振り50回だ!!」  よく晴れた青空の下、肌寒く感じる風が熱った(ほてった)体に気持ち良いトレーニングの日。今日はレニーが参加している。参加しているのだが、ストレッチ、走り込み、腹筋、背筋に腕立て伏せが終わり、木の枝に結びつけたロープを連続で往復20回終わった現段階で荒い息をしていて辛そうだ。 「レニー大丈夫? 少し休む?」 「こ、これをいつもやってるの?」  ガラガラの声で言いながら汗を手の甲で拭うレニーに私は頷いた。 「うん」 「…………みんな、平気そう、だね」 「もう慣れてるから」  そう。レニー以外は涼しい顔で素振りの為の準備をしているのだ。 「あのさ、ちょっと聞くんだけど……この後のトレーニング内容って?」 「えーっと、素手での素振りと剣を使った剣術トレーニング。素手での格闘トレーニングと実戦形式の試合と実戦形式の精霊戦、かな」  唖然としているレニーに私は苦笑を浮かべ、付け加える。 「でも、時々別のトレーニングも入ったりするんだけどね」 「………………ちょっと、私、休むことにするよ」  眉尻を下げ、乾いた笑いを浮かべたレニーに私は木陰を指差し、離れた場所で控えているジーナへ合図する。 「あっちで休んでて。今、飲み物を持って来させるからね」 「…………ありがとう」  レニーの歩く背を見ながら、皆の輪に戻ると私も剣を構えるとすでに素振りを始めていたジャックが素振りをしながら顔をこちらへ向ける。 「なんだ、レニーはもうへばったのか?」 「そりゃあ、初めてだから当然だよ」 「むしろここまでついて来ただけでもスゲェよ」  力強い素振りをし、汗を飛ばしながら言ったライアンにジャックはニッと笑う。 「それもそうだな」 「これを、すぐに、僕たちと、同じように、やられたら、僕やだなぁ」  剣を振り下ろし振り上げる合間合間にそう言ったセバスチャンに全員苦笑した。  この3年で全員の体力に合わせてどんどんとトレーニング内容が増えていて、一つ余裕が出始めると更に負荷が強められ、更にそれにも慣れてくると更に負荷が強まると言うサイクルで私たちは鍛えられていた。 「レニー大丈夫かなぁ?」 「ま、少し休めば大丈夫だろ」  チラリ、と木陰でジーナから受け取った飲み物を一気飲みしているレニーを気にしながら言った私にライアンも横目でレニーの様子を確認し、剣を振り下ろす。 「ところで今日のおやつは?」 「ジャックってば毎回そればっか」  なぁなぁ、と聞いて来たジャックに呆れたようにセバスチャンは小さく首を横に振る。  そんな四人の様子を見ていたダンテは腕組みしながら頷く。 「諸君、おしゃべりしながらとは余裕があってよろしい! ご褒美に後50回追加だ!!」 「「「「うぇぇえぇっ!?」」」」  私たちのハモった声にニッと白い歯を見せて笑ったダンテ教官に勘弁してくれと全員内心で悲鳴を上げながらも素振りを続けた。  父であるヴィクトーがダンテを家庭教師として雇った当初は子供の体の健やかな成長と運動能力向上が目的だったのだが、今や立派な戦闘訓練の様相になって来ていた。 「たぁあっ!」 「そりゃ!」 ーーカンッ!  ーーカシッ!  木で出来た二つの模造刀の刀身が乾いた音を立てている。  低い位置からすくい上げるようにライアンの脇腹へと打ち込むセバスチャンの一閃は、上から打ち下ろされた剣に阻まれ、打ち下ろした次の動作でライアンは同じようにセバスチャンの右脇腹へと切り込む。 「!」  素早く反応したセバスチャンは右足で地面を蹴り、半歩体を後ろに逃がしギリギリのところで木の剣を躱した。 「あっぶなー!」 「今の良くかわしたな」  軽く口笛を鳴らしたライアンにセバスチャンは怯むことなく再び剣を繰り出していく。  セバスチャンはまだまだ動きが大きく真正面から突っ込んでいくが、小さな体を生かして下段狙いの攻撃が最近お気に入りの戦闘スタイルらしい。ライアンはそれを上手くいなしているが、実力差がそこまである訳でもないので気は抜けないので、表情は真剣そのものだ。 「…………すごい」  木陰で見学待機中の私、ジャックの耳に同じく見学していたレニーの呟きが聞こえた。 「まぁな〜」  へへっと何故か自慢げな顔で言ったジャックをスルーし、レニーは私へ顔を向ける。 「この後の精霊戦って?」 「あぁ、それはね……」 「それは説明するより見る方が早いだろう!」  相変わらず良く通る大きなダンテの声に遮られ、そちらの方へ気を取られている間にライアンとセバスチャンの戦いは勝敗が決してしまった。 「あっ!」 「はい、残念」  ライアンの剣がセバスチャンのそれを弾き飛ばし、幼い少年の首元にピタリと当てられている。 「うむ。勝者ライアン!」 「あ〜〜ん。もう少しだったのにーー!」 「はっ! まだ早ぇよ」  悔しそうに天を仰ぐセバスチャンに手を振りながら私たちの方へ歩いてきながらライアンは汗をシャツの裾で汗を拭う。チラリと見える良く鍛えられた少年の腹筋が眩しく、恥ずかしく心臓がドキドキするがここの少年たちは気にする様子がない。 (まぁ、男の子同士なんだからそれは当然なんだろうけど、オバちゃんにはたまに刺激強いのよねぇ。しかも、皆どんどん大人になっていくし)  彼らの成長は見ていて嬉しいし楽しいが、大人になったイケメンのチラリズムとかホント心臓に悪そうだからやめて欲しいような、でも見ないなんて勿体無いような。妄想の葛藤にうーんと唸っていると、いつの間に側に来ていたのか、ライアンが私の顔を覗き込んでいた。 「どうした、フェリックス?」 「! な、なんでもないよ」  慌てて体を引きライアンの顔から距離を取り、私はパタパタと手を振る。 「お疲れ様! 今日もライアンの勝ちだね」  誤魔化すように大きめの声で言った私に片眉を上げたライアンだが、すぐにセバスチャンに視線を移す。 「あぁ。でも、いつまで勝てるかな。案外すぐにやられそうだ」 「え?」  つられて私もセバスチャンを見る。確かにこのところセバスチャンの成長は目覚ましい。四人の中で一番歳上で剣の腕も一番のライアンがそんな事を言うなんて。と、ライアンの横顔を見上げれば、目を細め微笑みを浮かべてセバスチャンを見ていた。 「ほんっと油断なんないわーお前らも気を抜くとすぐに追い抜かれるぞ」  嬉しそうに笑い言ったライアンに私とジャックも笑みを浮かべた。  ライアンもジャックもセバスチャンも、勿論私も互いの成長を認め、喜び、楽しんでいた。出来ることが増える度、私たちはトレーニングに熱を上げていき、それは確実にダンテにも移っていた。 「さぁ、諸君! 次に移るぞ」  ダンテの一声に私たちは次のトレーニングメニューへと動き出した。
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