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亜月はこの日より熊のぬいぐるみを友達とし、常に持ち歩くようになった。彼女の胸には常に熊のぬいぐるみが抱かれている。家の中では勿論のこと、寝る時も抱いて眠り、幼稚園にも持っていき「これ、あたしのくまちゃん」と友達に紹介するぐらいであった。
当初はまだ貰ったばかりで、嬉しくてたまらないのだろうと大目に見られていたのだが、幼稚園の先生が「ようちえんにかんけいないものは持ってきてはいけませんよ」と、注意をし、一時預かろうと亜月の胸から熊のぬいぐるみを取り上げた瞬間、彼女は豹変し怒りの表情を見せながら泣き喚き、先生の手に飛びつき思い切り噛みつき手放したところを取り返したのだった。
いつしか、御飯事のようなごっこ遊びの相手も友達相手から熊のぬいぐるみを相手にするようになっていた。友達が亜月に「あそぼ」と、誘っても「くまちゃんとあそぶからいやだ」と、断る始末。熊のぬいぐるみの御飯事の役割は毎日変わる、弟、妹と言った年下的立場が一番多く、兄・姉・両親になることもあったが極めて少ない。
このように人間を相手にせずに熊のぬいぐるみを相手にする亜月は幼稚園生ぐらいの幼い子供たちから見ても不気味に思え、友達が一人、また一人と離れ、彼女は友達の間から孤立するようになっていった。先生がそれに気が付き「おともだちと遊んだら?」と言ったのだが「いいの、くまちゃんがいるからさみしくないよ」と返されてしまった。
これはさすがにまずい。先生は亜月の両親を呼び出し相談をすることにした。確かにものを大事にすることはいいと思うが、さすがに限度があるし、これでは幼稚園生活において育むはずの友達との友情を育むことも出来ない。と、言うことを通告し、彼女から熊のぬいぐるみを離れさせようとしたのだが、取り上げようとした両親の手にも噛み付いて取り返しにくる始末。
熊のぬいぐるみが亜月の手から離れるトイレや風呂の間に隠しても、戻ってきた後に「無い」と気づかれれば、泣き喚きながら家中を探しにかかりどこに隠しても見つけてしまう。
寝ている間にそっと掠め盗ろうとしても熊のぬいぐるみに手を伸ばした瞬間に亜月はパチリと目を開け大声で泣き出してしまう。
手に負えない状態である。
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