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「どんな習い事なんです?」
「バレエ。」
「すごーい。」
「なんだか、発表会があるって。役もついたみたいで。」
「エトワールとか…プリミエとか…?」
「さあ。難しいことは、よく分からないけど…喜んでたから、凄いことなんだと思うわよ。はりきって練習してるみたいで。帰りも遅くって。時間もはっきりしないから、おばあちゃんは、ここで待ちぼうけ、という訳。」
「でも、バレエって、中でレッスン見学しながら待てるんじゃ…」
私も、ほんの一時期だけバレエを習ったことがあった。その時は確か、ガラス張りのレッスン室の外で、母や祖母が待ってくれていた記憶がある。
「それが、ちょっと面白いっていうのかしら、おかしな子でね。なんていったかしらね…えーと、“ネタバレ”?とかいうのになるから、見に来ないでって。」
予想外の理由に、思わず吹き出してしまう。
「面白いですね。」
「でしょ。時々そういうこと言うのよ、あの子は。私のこともね、ハルコさんって呼ぶのよ。ほら、よくあるじゃない。おばあちゃんとか、おじいちゃんって呼ばれたくなくてそうしてるお家。私、そんなタイプじゃないから恥ずかしいんだけどね。なんでだか分からないけど、小さいときから、ハルコさんって。」
「素敵じゃないですか。」
「そう?私が頼んだ訳でもないし、父親や母親が言わせてる訳でもないらしいのよ…まったくおかしな子でしょ?誰に似たんだか…」
(出会ったばかりですが、ハルコさん、たぶん貴方ですよ、似たとしたなら。)
つい、そんなことを思ってしまう。
「たぶんね、下手な…出来ない状態を見られたくないのね。私もそういうところあるから分かるわ。」
(ほら、やっぱり)
ハルコさんの視線が、また外に移る。私も振り向いてみると、バレエ教室の看板が見えた。
「まあ、でも、そうね。あの子は…私の自慢なの」
そう言ってから、ハルコさんは、またカラカラと笑った。とても幸せそうに…。
と、ここまでが約30分。
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