0人が本棚に入れています
本棚に追加
社交的そうに見られるけど、実はそうでもない私としては、楽しくて不思議な時間だ。心地よくて、どこかせつなくもあった。そして、もう少しこうして居たかった。
「おいくつ、なんですか?」
「八歳かな。小学生三年生。」
(じゃあ、エトワールということはないかな…)
先程見えた看板には、かなり有名な教室の名前があった。
ちょうどのタイミングで、窓の外の通りを、小学生とおぼしき子供達が元気に駆け抜ける。
「ああ、今夏休みですね。」
「そうなの。発表会は秋でね。なんていうの?本部の教室から偉い先生が来て集中レッスン?そういうのみたいで。だから、ほら、厳しくて。怒られたり、それで泣いちゃったりする子もいるらしくて。そういうのも見られたくないのね、きっと。」
「少し、分かる気がします。小さくてもプライドってあるんですよ。」
そう、私には心当たりがある。同じ頃に習い始めたバレエは直ぐに辞めてしまったけど、ずっと続けたもう一つの方、ヴァイオリン。我が家も共働きで、レッスンの送り迎えをしてくれたのは、主に祖母だった。
初めて習った曲は《きらきら星》。つぎつぎに音が出せるようになる他の子達。それを見て喜ぶ保護者。私の弓はいつまでもキーキー言ってるだけだったのに、祖母は、ずっと微笑んで私を見ていた。それが悲しくて悲しくて…。帰り道、私はシクシク泣き続けて、祖母を困らせた。家につく直前「がんばりなさい 」ただ、そっとそう言った祖母の声が蘇る。
最初のコメントを投稿しよう!