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ジリリリ、携帯のアラーム音で、私は飛び起きる。ディスプレイを見ると、毎度のことながら設定時間の8時をちょっぴり過ぎていた。三回目のスヌーズでやっと目を覚ましたらしい。
私は上半身を起こしてグッと背伸びをすると、まだ覚醒していない身体を無理やり動かす。
軽くお腹に食べ物を入れて、歯を磨き、着替えをする。平日は学校のためと仮眠を挟んで今の、1日に2度行う支度をしていく。
三十分ほどでそれを終えた私は玄関で靴を履き、携帯から繋がるイヤホンを耳に付けた。ワイヤレスよりも、個人的にコード付きの方が好きだ。なんかイヤホンって感じがするじゃん。
準備万端で外に出ようと扉を開けた隙間から流れ込んできた冷たい風に、私は反射的に扉を閉める。思った以上に寒かった…
私は玄関脇のポールハンガーに掛かっているパーカーを羽織ってから、今度こそはちゃんと外の世界へ歩き出した。
イヤホンで音楽は流さない。ただ聞きたくない音を、声を遮断するためだけに使う。
もう9時近いのも相まって、無音の世界はとても美しかった。秋の夜を、口笛を吹きなから歩く。嫌なことは何も無かった。
もし夜が怖ければ、耳を塞いで息を殺しながら夜明けを待つのが正解だと昔は思っていた。現にそうしていた。
今は克服したとか、対処法を見つけたとか、そういう訳じゃなくて、ただ逃げ道をを見つけただけだ。今だって、怖くなる時はある。
でも眠れなくて街を歩いたある日、
『怖さを忘れればいい』
真夜中に出会った双子は、そう笑って私の手を引いた。
そして連れ込まれたのは、秘密基地みたいなライブハウスだった。
『怖いなら、怖くなくなるまで叫べばいい。僕らと喉が枯れるまで歌おうよ』
楽しそうに音楽を奏でる双子を見て、漸く夜明けよりも大事なことを知ったあの日を、私は忘れない。
行く宛も無く彷徨った夜に、目的地が生まれた瞬間だった。
数十分も歩けば、見慣れた外観のライブハウスの前まで辿り着いた。あの双子の知り合いが経営していて、特別に夜間だけ、格安で貸してもらっているらしい。その階段を降りて重い扉を押し開ければ、いつもの景色が広がっていた。
ステージに腰掛ける瓜二つな双子が同時にこちら
を向いて
「おー、来た来た。遅いよ」
と息ぴったりに言った。
「ごめん、ごめん。じゃ、カメラ回すよ」
私はそう答えながら、ビデオカメラのスイッチを入れてステージに立つ。
全員が立ち位置につくと、私達は顔を見合わせる。そしてニヤリと笑った双子が口を開く。
「合言葉は?」
私もそれに応えるようにしたり顔で笑いながら
「イヤホンをを外して!」
と叫び、自分の耳のイヤホンを取った。
双子が紡ぎ出すギターの音に、夜を切り裂くほどの歌声を乗せる。
もう、夜なんかに負ける気はしなかった。
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