あの金木犀の下で

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あの金木犀の下で

 僕は、裏山にある優しくどこか懐かしみのある金木犀の下で、ある女の子と出会った。 あれは、まだ僕が幼かった頃、いつもにまして肌寒い日、僕は散歩をしていた。 ちょうど裏山を通りかかった時だった、急に風が強く僕に吹き付けた。 「今日もさみぃー」と肩をすくめ、思わず独り言を言った時だった、金木犀の方から女の子の声がした。 「最近寒いですね…風邪引きません?」と僕に言った。 「だ、誰?!…僕は上原健(うえはらけん)」と僕が驚いたように言うと女の子は「私は、金木花(かねきはな)といいます。」と答えた。 すると女の子は僕に近づいてきていきなり 「あなた…お花に興味ないでしょ?」と言われ思わず僕は、「だって男だもんあるわけ無いじゃん」と言ってしまった。 すると、女の子は寂しげな顔をした。 「ご、ごめん…でも…」と僕が謝ると女の子は「仕方ないよ」と言って、僕の手を取り金木犀の下まで連れて行った。 「いい匂いでしょ?これ金木犀って言うのよ?」と教えてくれた。 「本当!いい匂い!!」と僕が言うと女の子は、嬉しそうにうなずいた。 よく木の下を見ると、そこにはまるで、オレンジ色のジュータンがあるように見え、僕は「オレンジのジュータンだぁ!」と言葉にすると女の子は「ホントだ」と微笑んだ。 そろそろ日が暮れてきてオレンジの空になった。 「そろそろ僕帰らなきゃ…」と言うと「また、明日…この金木犀の下に来てくれる?」と女の子は僕に言った。 僕には遊ぶ相手も、友達もいないしどうせ暇だからと「いいよ!また明日来るよ」と言いその日はお別れをした。 次の日、僕は約束通り裏山の金木犀の下へ行った。 それからと言うもの僕は、来る日も来る日も、裏山へ行き、金木犀の下で女の子と沢山話し込んだ。 ある日の帰り際の事、女の子が僕に「あのね、私そろそろ遠くに行っちゃうの…せっかく仲良くなれたのに…ごんね」と女の子は今にも泣きそうな顔で僕に言った。 僕は「そっか…僕にも友達が出来たと思ったのに…残念だなぁ」と言った。 すると「来年もまたこの時期に、この金木犀の下で会ってくれる?」と女の子は僕に微笑みなが言った。 何処か微笑んだ顔がこの金木犀のように優しく温かく見えた。 僕は小さくうなずいた。 家に帰り、ばーちゃんに今まであった事話をするとばーちゃんは「それはな、金木犀の妖精だよ。ばーちゃんも小さな頃あの金木犀の下で女の子と話し込んだ事があった。」と言った。 数日後、裏山の金木犀を見にいくと、金木犀の木は葉だけが残り花は散ってしまっていた。 僕はその金木犀に向かって「また来年、金木犀の下で」と言いった時、いつかの日のように風が強く吹き付け、微かに木の影で女の子が微笑んだように思えた。
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