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本棚に追加僕も、
向こうから「入るぞ」と声がして、ドアががちゃりと開いた。すでに階下から声がしていたから来ているのはわかっていたけれど、なかなか入ってこないから逆に緊張が高まって、いっそ早く来てほしかった。
「ヨウ」
けれど顔を見たら、やっぱり来て欲しくなかったと思う。僕はいつもより厳しい顔をした稲葉を見ながら、早くこの時間が終われと思った。
「俺は」
これから話すのだろうことを想像して、僕は顔を強張らせる。稲葉が一歩踏み出して僕は知らないうちに逃げようと体を引くけれど、ただ背中がベッドにぶつかっただけだった。稲葉はそれ以上は近寄らずに続ける。
「今回のことは謝らない」
僕はうっと声を詰まらせる。
そもそも、こんなことになったのは僕が嘘をついたせいだった。特に何もない休日を二人で過ごすことは多々ある。その土曜日も、特に目的もなく会う約束をしていた。何をするわけでもないけれど二人でいるのは楽しいから。
けれど僕はその約束を反故にした。
「お前は嘘をついた」
なぜだか分からないけれど、稲葉は僕の幼馴染みのことが好きじゃない。幼馴染みの話をすると何時にもまして言葉数が減る。人の顔色ばかり窺う僕は、家族でも友達でも、そして稲葉でさえもその顔色を窺う。だからその時、家の用事だと嘘をついた。
「確かに俺は、お前の幼馴染みが嫌いだ。でもあの女に会うことよりも、嘘をつかれることの方がうっとうしい」
稲葉は基本冷たい。言葉は少ないし、口は悪いし、余計なことは言わない。けれど僕が困っていたりしょげている時はそばにいてくれるし、それに本当に冷たいことは言わない。実のところ、稲葉は優しいやつだ。
特に僕には甘い稲葉から、だからそんなふうに言われることには慣れていない。
「俺はまだガキだから、そんな小さいことでも許せねえんだよ」
いつも、何をしても許してくれたから。
「今後も同じことがあればやっぱり俺はお前を許せないし、今と同じことになるだろうな」
甘えていたのだ。
「だったらもう俺たちは」
聞きたくない。でも僕の手は呪いにでもかかったみたいに動かない。耳を塞ぎたいのに。
「ダメだ」
頭をガンと殴られたような、腹の底がグンと重くなったような感覚で、僕は顔が歪むのが分かった。ダメだということは、別れるという意味だろうか。稲葉はそれでいいのだろうか。僕は、
「別れるしかない」
イヤだ。
稲葉が僕の顔を見ている。それはさっきまで怒っているような顔に見えたけれど、よくよく見ると苦しそうな顔にも思える。
「ただ」
淡々としているようでいて本当は稲葉も辛いのかなあ。
「お前に言っておきたいのは、俺は別れたくないってことだ。そんで」
僕と同じ気持ちなんですか?
「俺は」
僕は、
「お前が好きだ」
稲葉が好きなんだ。

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