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◯大人になったら。
ひっぺがされていく毛布に、意地でも離すもんかとしがみつく。敵は結構手強い。華奢で、普段はふわふわしているくせに、
「アキちゃん、ほら起きないと! 仕事の時間!」
お袋め、朝は結構鬼だ。抵抗虚しく取り払われる毛布。臍の辺りがすうすうして、俺は反射的に背中を丸めた。
「起きなさいっ、知白っ!」
「っせぇなぁー、もー」
渋々起き上がると、お袋は俺を鬼の形相で見下ろしていた。
「まったく、いつまでたっても子供なんだから。これじゃあ未来のお嫁さんに、あんたを引き渡せないよ」
「うるせぇ。俺の薄給で結婚が出来るかっての」
「とにかく、早く支度して、プラント動かしてちょうだい。従業員の皆が来ちゃう。あと、お薬はちゃんと飲んでね」
「わかってる」
お袋は、まだ毛布なんか被って寝てるなんて、などとぶつくさ言いながら、俺の最愛の毛布をさっさと丸めて持って行ってしまった。
まったく、年頃の息子の寝起きに突撃なんてよくやるわ。と、下を向いてみれば、スエットズボンの股間は、お袋に見られて困るような状態じゃない。いやむしろそれじゃ困る。俺まだ二十一なんだぞ。朝は見られて困るくらいで丁度いい。やっぱり、番が出来た影響なんだろうか、ここしばらくずっとこうだ。
ピルケースから抑制剤を一錠出して、水無しで飲む。ちゃんと効いてるのか心配になる。知玄と番の契りを結んで以来、体調の変動がなくなってしまい、今自分がバイオリズムのサイクルのどこら辺にいるのか、見当がつかない。
番が出来ればもう馬鹿みたいに発情することはないのだから、抑制剤なんて必要なさそうだが、医者は念のため二十三歳くらいまでは飲んどけという。抑制剤には、発情を抑えるだけでなく、Ωの内性器の発育を阻害する効果もあるからだ。身体をΩとしては発育不良にしたまま、成熟した大人の男に成長させれば、妊娠能力は喪われ、体格も女性化しにくいという。
右の掌を握って開く。知玄に犯されて以降、体力や筋力が落ちたという感じはしない。性欲は減退したというより、番以外には興味がなくなったのかもしれない。
これからどうなるのか、よくわからない。だが、Ωに生れた以上は、精神衛生のためにいずれ番は作らなければならなかった。
『でも、今はダメだ。アキはまだ子供だから、大人になるのを待って、番になろう』
もう永遠に叶わない約束。だが俺は他に番を得てしまった。その資格があるほど大人になったと言えるのかは謎だが、番になった以上は、相手に対して責任を取るのはお互い様。
知玄はどうやら俺だけに執着している。年頃の男として、やれる相手を持たないのはしんどくないかと聞けばあの野郎は平気だと言うが、そんなはずはないだろう。
じきに祭りのお囃子の稽古が始まって、俺は家に居られなくなる。その前に何とかしないと、知玄が可哀想だよな。
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