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◯なんでこんなところに?
ちょっと脱け出して公民館の裏手にまわり、うんこ座りで煙草をふかしていたら、
ドンッ! ドンッ! でしっ!
「おおぅ」
背中にどっしりとしたつきたてのお餅みたいなものが次々乗っかってきた。
「アキちゃんみーっけ」
「なんだよ。煙草吸ってるとこに乗ったらあぶねぇだろ」
背中が重いまま、ゆっくりと前屈みになって地面に煙草の先を押し付ける。お餅が二匹、背中から降りて、俺の目の前に立ちふさがる。もう一匹はまだ乗っている。ふかふかのお腹が密着して暑苦しい。
「またサボってる。先生に言うよ」
お餅その1が俺をビシッと指差した。
「ちゃんとすいがらはゴミ箱に捨ててよね!」
お餅その2も負けず劣らずキツい。姉妹ではないのによく似ている。どうしてこう、歳上の男にも物怖じせずに絡んで来る女子って、見た目が似たり寄ったりなんだ。小さくて丸い目に小さくて丸い鼻、でも鼻の穴はでかい。全体的にお餅、みたいな。これはこれで、可愛いのかもしれんが。少なくとも、こいつらの親にとっては。
お餅三人衆は、小学生の太鼓メンバーの誰かの妹で、あにきの練習に毎晩着いて来るのはいいが、いつもすぐに飽きる。そういう幼児が他にも沢山いるから、若衆が交代で遊んでやる。親達は、井戸端会議中。
「アキちゃん、ほらお囃子の練習! 行こっ!」
「そんなぐいぐい引っ張んな」
お餅その3はテコでも降りないつもりらしく、しょうがないから俺はおぶったまま立ち上がった。表に出ると、誰かがヒューヒューと口笛を鳴らす。
「あらぁー、アキちゃん、モテモテじゃなぁい?」
「いよっ色男っ」
「うるせえ殺すぞ」
俺が呻ると、お餅その1が俺のズボンを引いた。
「殺すなんて言ったらダメなんだよ」
真顔で説教された。はい、すんません。
テコでも降りなかったお餅その3が急に背中で暴れ出し、俺がしゃがむのを待たずに飛び降りて駆け出した。
「アカネちゃーん」
お餅2も後を追った。茜が来たからだ。チビ達は、お姉さんがいれば、野郎よりもそっちの方が良いらしい。お陰で茜は今やすっかり子守り要員とされている。
この地域土着の祭りは女人禁制だが、茜は何故か稽古初日の顔合わせの時から、しれっと末席に着いていた。大学の研究レポートのためだとか、なんだとか。一体、頭の固い老人達を、どう口説き落として潜入してきたのやら。
「おはようございます、知白さん」
夜なのに「おはよう」って、業界人か。
「ん、どーも」
確かに、若衆は目上を下の名前にさん付けで呼ぶけれども、女子がそれをやると謎の深みが出るので、ちょっとやめて欲しいかな。
茜がチビ達を連れて行った後、お餅その1がまだ残っていた。
「お前も行けよ」
だがお餅その1は俺の右手を抱え込んで離さない。
「やだっ、うちはアキとがいい」
呼び捨てかよ。それもやめろ。
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