●お預け!

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●お預け!

 兄と遅い朝をゆっくり楽しむ予定だった日曜日は、本家から米を貰う見返りの草刈りや野菜の収穫の手伝いで潰れた。 「米くれるったって、新米が届く前に在庫を一掃しようって魂胆だからな。ネズミ臭ぇ古米なんか貰っても」 「貰えるものは有り難く頂戴しろっていうのが、うちの家訓ですからね」 「対本家専用のな」  納屋の片隅に積んである米袋を、知玄は持ち上げた。 「ふんぬっ! 重ぉー」  一袋三十キロもある。知玄が四苦八苦している間に、兄は袋を軽々と肩に担ぎ上げた。 「さすが、お兄さん」 「ま、バランス感覚と慣れだな」  兄の背中を追って、暗い納戸から眩しい外へ出る。知玄が一袋運び出す間に、兄はさっさと数往復して車のトランクに米を積み込み、ついでに隣に停めてある高級車にも二袋積んだ。 「悪いね」  高級車の持ち主は兄に言った。誓二さん。知玄には分からない、何か複雑な事情を持つ人らしいが、いちおう戸籍上では、知玄達の叔父にあたる。 「ふん、米取りに来るのにそんな小綺麗な格好で来るヤツがあるかよ」  などと兄は悪態で返す。  セイジなんてごくありふれた名前だが、あのセイジさんとはこの人なんだろうなと、兄と誓二さんの距離感を見て知玄は思う。彼には昔ここで遊んでもらった覚えがあるが、あまり本家には寄り付かない人だ。兄とはいつの間に親しくなったのだろう。 「今日は、物々交換できるもんを持って来たから」  誓二さんは持っていたキャリーケースを掲げてみせた。  米を貰ったら即退散するつもりが、昼を一緒に食っていけと叔母に引き留められてしまった。昼食を待つ間に、誓二さんは土間にケースを置いた。正面には犬用の柵が設えられている。柵の中では番犬が落ち着きなくぐるぐる走り回るが、 「お座り」  誓二さんが命じると、犬はシャキッと座った。飼い主の智也よりも、よほど飼い慣らしている。 「誓二兄ィすげぇ」  智也が感嘆すると、誓二さんは得意げに鼻を鳴らし、ケースを開けて中から丸々とした子犬を掴み出した。 「米の代金にしては高過ぎんじゃないの」  兄は言った。子犬は青みがかった灰色に牛のような黒斑模様のある、いかにも血統証つきっぽい犬種だ。 「タダで貰ったんだ。シェルティーなんだけど、模様に欠点があって売れないとかで。さぁ、お利口さんにプレゼント」  誓二さんは柵越しに子犬と番犬を対面させた。番犬が興奮して一声吠えると、子犬はいっぱしにキャンキャン吠え返して、先住者を驚かせた。だがすぐに二匹は互いに尻尾を振り、臭いを嗅ぎ始めた。 「智也、こいつはオスだがΩだから、避妊手術受けさせないと孕むからな。それだけ注意しろよ」 「了解っす」  Ωとは。生物で習った覚えはあるが、本物を見るのは知玄は初めてだ。 「もう打ち解けてら。あれがαなんだ。こいつらも、運命の番ってヤツなのかねぇ」  誓二さんはしみじみと言った。
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