◯なかなか本題に入らないやつ。

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◯なかなか本題に入らないやつ。

 明日早いからって、さすがにまだ寝るには早いかなと思いながら、布団に半分もぐり込んで漫画を読んでいると、知玄が帰ってきた。 「ただいま戻りました、お兄さん」 「おう、お帰り」  話したいことがあるというから、その前に飯食って風呂入ってこいやって言った。そして三十分後、知玄はさっぱりした姿でやって来たので、ベッドに腰掛けさせた。  知玄の話はとりとめがない。なんかどっかに着地点があるのか、ないのか。よくわからねえな。  脇腹を指でつついてみた。こっちを振り返った知玄に、顎を上げて合図する。ちゅっと軽く唇と唇が触れた。やっぱあれか、やりたいのか?  布団をのけ、仰向けになる。知玄は従順に俺に覆い被さってきた。首筋の痣を吸われ、太腿に熱いものが押し当てらてる。やっぱりやりたかったのか。  久しぶりに相手してやろうとしたら電話が鳴った。しかも立て続けに二回。真咲と、誓二さん。どっちも大した用じゃねぇ。あーあと思って電話を切り、知玄の情けねぇ顔に顔を近付けた時、また電話が鳴った。着メロでなぎさだとわかる。 『もしもし、アキ? 久しぶりぃ』  電話しながら誰もいない所に向かって手を振ってそうな声だ。なぎさにはそういう所がある。  場所を一階の休憩所に移す。なぎさの話もまたとりとめがない。昔の共通のダチが今は何してるとかなんとか、そんな話に相づちを打っていたら三十分くらい経った。  不意になぎさが沈黙した。やっと喋るネタが尽きたか。明日俺は早いからもう寝ると言うタイミングが来たな。 「あのさ」 『あのね』  きれいにカブった。 「先どうぞ」 『うん、あのねアキ。うちね、今度結婚するんだ』  えぇー!? 一瞬頭ん中が真っ白になった。こういう時、何て言うんだったかわからない。言葉に詰まっているうちに、不穏な間は延びていく。そうだ、あれだ。 「お、おぅ。おめでとう」  これだろ?  細長い長方形に区切られた星空を見上げ、煙草を吸っていたら、玄関の引き戸がカラカラと開いた。 「お兄さん、こんな所にいた」  よく見付けたな。ここは家と工場の狭間で、しかも陰になっている。 「匂いで分かりますよ」  なにそれこわい。もう八時半過ぎてますよと知玄は言って、俺がウンコ座りしているすぐ横にしゃがんだ。なんか前にもこんなことがあったような気がする。忘れたけど。  根本近くまで灰になった煙草を揉み消し、新しいのを出して火を点ける。 「あのさ」 「はい」  知玄は首を傾げて俺の顔を覗き込んでくる。 「なぎさが結婚するんだって。さっき、電話してきた」 「へぇ」  十二月だって。急だがデキ婚ではないとさ。旦那の誕生日を記念日にするんだと。寒いし年末だがそのぶん費用は安いんだって。ご祝儀っていくら持ってけばいいんだ。服は成人式の時のスーツじゃダメかな。……って俺、何喋ってんだよ。知玄の話、聴くんじゃなかったのか?
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