まるでパニック映画の中だ

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まるでパニック映画の中だ

「は……⁉︎ 何、が起きて……⁉︎」 「急にどうしたの⁉︎ 警報って……」 「サトル! どうしたらいい⁉︎」 「とにかく、訓練通りにシェルターに避難しよう!」 「そ、うだな……」  サトルはその場にいた他の生徒達にも大声で呼びかけて、まとまって地下のシェルターに避難を始める。  ナサニエルで警報って、今日は訓練があるなんて聞いてはいないはずだ。  そうなると、この警報は何が原因で鳴り始めたんだ?  俺は走りながらそんなことをぼんやり考えていると、横目で女子がうずくまっているのが見えた。  俺は足を止めて、シェルターとは真逆のその女子のもとへと向かう。 「あの、大丈夫ですか?」 「……転んで、足を捻ったみたいで」 「見てもいい?」  その女子に許可を取り、俺は抑えてる足首を見てみる。  幸いにも腫れてはおらず、これなら肩を貸せば歩けるという感じだった。  そこに俺を追いかけて来たであろう真由、サトル、橘さんがやって来た。 「昴! 急にいなくならないでよ!」 「しょうがないだろ⁉︎ この人がうずくまってるのが見えたんだから!」 「あれ、もしかして転んだとか……」 「シャノンさん? あ、やっぱり! シャノン・ローレンさんだ!」  すると、橘さんがその女子に向かって呼びかけると、その女子は俯いていた顔をパッと上げる。  それに真由も反応を示した。  シャノン・ローレンと呼ばれたその女子は明るいベージュの癖のない髪が背中にまで伸びており、青をベースにして茶色が混ざったような瞳が印象に残る、清楚で大人びた少女だった。 「本当だ、もしかして怪我した? シャノンさん、大丈夫?」 「湖中さん、橘さん、よかったわ……知ってる人に会えて……」 「菜々美、知り合いなの?」 「うん、同じ医療科なの」 「知り合いなら安心だ、三人でローレンさんのことをシェルターまで連れてってくれよ!」 「は? サトルはどうするんだよ⁉︎」 「僕はローレンさんみたいに途中で怪我したり、逃げ遅れた人がいないか探しに行ってみるよ!」 「それなら、俺も行く!」 「ちょっと! 二人とも何言って……」 「危ないってば‼︎」 「大丈夫だってば! 異常がないことがわかったらシェルターに行くから」 「真由と橘さんは彼女のこと頼む」 「昴、行こうぜ!」  そして、俺とサトルはすぐさまナサニエルの奥に走り出した。  後ろで、真由の引き止めるような声がした気がするけど、振り返らなかった。  逃げ遅れてる人や途方に暮れてる人は何人もいて、見つける度に俺とサトルはシェルターに向かうように言う。  そんなことを繰り返してる時に、猛スピードで横から走って来た人影に俺はぶつかって、そのままサトルを巻き込んで倒れてしまった。 「何なんだよ……イッテテ……‼︎」 「昴、大丈夫か?」 「サトル、巻き込んで悪い……そっちは大丈夫だったかって……」 「お前、どこに目をつけてんだ‼︎ 気を付けろ‼︎」  目の前で、頭を擦りながら俺に暴言を吐いてきたのは双子の弟の望だった。 「お前こそ、前を見てなかったんだろ? お互い様だろ」 「言い訳はいい‼︎」 「そんなつもり……頭打ったのか?」 「関係ないだろうが‼︎ 触んな‼︎」  そんな暴言に傷付くことにもいつの間にか慣れてしまった。  双子と言っても、俺と望は二卵生の双子だから暗い茶髪で黒い瞳ってこと以外はまったく似ていない。  目鼻立ちもはっきりしてて、俺より身長も高く、何をやらせても優秀。  双子なのに、全ての出来は圧倒的に望の方が上で何よりある事件から俺達の仲は最悪だった。  こうして目を合わせて会話をするのは本当に久しぶりだった。 「君達、そんなとこで座り込んでどうかしたの?」 「あ、いや! 何でも……」  思いっきり尻を打ってなかなかに痛かったが、俺は声をかけてきた人物の方に視線を移した。  その時に、俺は人を見て初めて息を呑むという行為をした。
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