夢うつつ

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さっき言われたことを、思い返してみる。 進藤さんは、私のことが好きだと言った。 それは、たぶん出会ってからずっとで、私たちが初めて会ったのは、あの居酒屋ではない。 どこかで会っていて、私は覚えてない。 確か、やっと会えたって言ってた。 いつ?どこで会ったの? それから、私が迫ったけど、耐えたって言ってた。 それってどういうこと? あの夜は何にもなかったってこと? 小悪魔だとか悪い女だとか言ってたけど、あの日私はいったい何をしたの? わからないことが多すぎる。 でも、進藤さんがここのところ落ち込んでたのは、私からの連絡がなかったから、てことよね? あれ? じゃあ、あの女性消防士さんが言ってた、想い人がいるっぽい説はなんだったんだろ。 ……ん? もしかして、私?とかだったりして… もしそうなら嬉しすぎる。 でも、だって! 私のこと、好きって言った! じゃあ、あの日は、ちゃんと私を好きで抱いた、てこと? 頭の中で整理しつつ、自分の立てた仮説に喜んでいた。 いったん落ち着こうと、洗面所を借りる。 女の影は見当たらない。 こんなところをチェックしてしまってる自分が恨めしい。 何、彼女気どりになっちゃってんのよ。 まだそんな関係じゃないのに。 まだ、と思ってる時点で充分彼女になる気満々だが。 顔を洗って、鏡の中の自分を見る。 閉まりきってないブラウスの隙間から自分の胸が見え、開いてみる。 そこには、さっきつけられた跡が赤く残っていた。 『これ見て、俺を思い出して』 その跡を触りながら、先ほどの言葉を思い出し、赤面する。 私、ちゃんと愛されてたんだ… 胸が締め付けられる。 顔がニヤける。 でも、この位置だと、上まできっちりボタン閉めないと見えちゃいそう。 ふと視界に入った時計。 「あー!終電!!」
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