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入社してすぐは、研修も兼ねていろんな売り場での販売員を経験する。
私は接客が好きだったし、いろんなショップをまわることで、いろんな商品に触れられることが楽しかった。
各売り場でも、目まぐるしく商品が入れ替わるので、商品知識を習得するのに一苦労する。
同じように幅広い商品知識を必要とするのが外商営業である。
外商といえば、セレブのおばさま宅を訪問してるイメージだが、あながち間違いではない。
顧客外商は、お得意様である個人客を訪問などして、その人の希望に合う商品を案内したり、時にはその人が好みそうな商品を提案したりして、モノを売っている。
他にも、企業や法人を相手にする法人外商もある。
当然ながら、企業外商の方が動く金額は大きい。
どちらも、信頼が命だし、付き合いは当然深くなる。
その人に合ったものを自分が提案する、という点においてはおもしろそうだとは思うのだが…
「マジで外商する気ない?」
話は終わったと思っていたが、坂上さんは続ける。
「外商は花形だぜ。店頭でちまちま売ってても面白くないだろ」
「ちまちまって……。確かに売上は外商には敵いませんけど、なんていうか、私、現場の雰囲気が好きなんですよね……いろんな人の笑顔が見れるから」
「うっわ。ちょっと今くさかったぞ。よく平然と言ったな」
「……うるさいです」
それからしばらくは何事もない日常を過ごし、あのイレギュラーな夜の出来事も薄れつつあった。
時々、女の悦びに震えた日のことを思い出しては、体が疼いたりもしたが、気持ちのない体の関係は虚しくなるだけだ、と自分を律した。
そもそも、どこの誰かわからないし、もう二度と会うこともないだろう。
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