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「その前の彼はどんな感じだったの?」
「その前って言われても、学生の時だし…優しかった、とは思うよ」
大学生の頃、他大学とのサークル交流会で知り合った一つ年上の人と付き合っていた。
あの頃は、嫌われたくなくて、彼に遠慮したり合わせることが多かった。
優しかったとは思うけど、ちょっとでも私のキツイ一面を覗かせたら、若干顔が曇ったように感じたので、自我を出し過ぎないように我慢していたように思う。
私は短大生だったので彼より先に就職した。
彼が就職活動で奮闘しているさなか、私が会社での出来事を語ることで、社会人と学生の違いを見せつけられたとでも思ったのか、彼のプライドが傷ついたようで、フラれてしまったのだ。
「じゃあ、あの人は?ほら、あんたが前に、酔って記憶なくしてワンナイトしちゃった人」
「ぶふっ」
「や!ちょっと!汚いわね〜」
予想外のことを言われて、びっくりして噴き出してしまった。
おしぼりでテーブルを拭きながら答える。
「忘れてたのに……。何、急に」
「え、だって、志桜里がめちゃめちゃ甘えてたから…」
「ウソ?!」
「志桜里が醜態晒しても面倒見良かったし?怒鳴らず大事にしてくれそうじゃん。顔も…まぁ悪くないし」
「今、間がなかった?それに醜態って…」
「完全なる酔っ払いだったよ。それを嫌な顔せず相手してさあ……まぁ、仕事がら介抱には慣れてるのかもねぇ」
「え?仕事がら?…何やってる人なの?」
「ふふふ、気になる?」
ニヤニヤしながら問われて、素直に頷けない。
あの日、そういう会話もしたのだろう。
私ってばホントに全部忘れてるんだな……情けない。
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