回顧

5/9

410人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
でも、美奈のこの顔は、私に食いついて欲しいと思ってる顔で、さながら、えさを付けた釣り竿を目の前に垂らされているかのよう。 ここに食いつけば、よくない展開になりそうだ。 それならこれ以上この話を続けるのはやめにしよう。 だって、結局のところ、もう会わないのだから。 「別に…。話の流れで聞いただけで、気になってるわけではありません」 「ふうん。志桜里には合ってるような気がしたけどな~」 「やめてよ。だいたい、どこにいるかもわかんないんだし、今更そんな話しても仕方ないじゃん」 「ふむ。……ちなみに聞くんだけど、あの夜は彼の部屋にいたんだよね?」 この話は終わり、と終止符を打ったつもりだが、美奈は続ける。 あの日のことをまだ掘り下げてくるとは… 「まぁ、そうだけど」 「なら、家わかるんじゃん」 「家、て言っても、あの時は頭ぐちゃぐちゃの状態で帰ったから、最寄り駅しか覚えてないし」 あの朝、あの状態でよく帰れたものだ、と我ながら感心する。 「そもそも、セフレとか気持ちのない関係はイヤだって言ったじゃん」 「前も疑問だったんだけど、何をもってセフレだなんて言ってるの?」 「だって!……なんか慣れてそうだったし……体の相性良いって言ってて体目当てみたいな感じだったし……別に好きとか言われたわけでもないし……」 確信が持てなくなって、だんだん声が小さくなる。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

410人が本棚に入れています
本棚に追加